火の鳥・復活編
科学の力で死から蘇った男の数奇な運命を通じて、生を問う作品です。
<物語>
西暦2482年、一人の若者がエアカーから落下して死んだ。だがこの若者、レオナの物語はここから始まる。
レオナは実験段階の最新医療技術によって、死から復活する。
しかし、脳の大半を人工脳にされた後遺症から、レオナには人間や動物等の生物が、無機質の塊にしか見えなくなる。
失意のレオナだったが、彼は雑踏の中で、唯一”人間”に見える女がいる事を発見する。
女を追うレオナだったが、レオナの目には女性として映るチヒロは、実は建設会社の事務用ロボットだった。
チヒロに恋をしたレオナはチヒロの所有者の会社に出向き、チヒロを買い取ろうとするが、会社は取り合わない。
一方、チヒロもレオナに対する想いが制御出来なくなってくる。
記憶が、少しづつ蘇るに従い、自分は陰謀で殺されたのではないかと不審を持ったレオナは、独自で調査を始め、遂には犯人と自分が殺れた理由を突き止めるが、しかしそれはレオナの心を鎮める事にはならなかった。
レオナはチヒロを得るため、チヒロと共に逃亡する事を決意する。
追っ手を振り切り国境を越えたレオナたちだったが、山中でエアカーが事故を起こし、吹雪の中、立ち往生する。
二人を発見したのは人間の臓器密輸の一味だった。
一味の女ボスは長年の宇宙の旅で体が消耗しきっており、代わりとなる新しい体を探していた。
ボスの策略でレオナの体がボスの新しい体として供される事になった時、レオナは医師に自分の記憶を人工脳からチヒロの脳に移す事を頼む。
こうして、レオナとチヒロの意識は合体し、一つとなる。
再び目覚めたレオナとチヒロだったものは、自分の体がチヒロの体ではない事に気付く。
チヒロの体ではレオナの記憶を収めるだけの容量がなかったため、こけしの様な不格好な体をしたロボットに移されていたのだった。
一方、レオナの体を移植したボスは次第に拒絶反応を起こし始め、遂には錯乱したボスによってアジトは爆発する。
瓦礫の中から起きあがった元レオナ=チヒロだったロボットはあてどもなく彷徨う。
やがて人間の家族に拾われたロボットはその家の召使いとして最後の時を過ごした。
普通のロボットとは違い、どこか人間臭さのあるそのロボットに、家族はロビタという愛称をつけて可愛がった。
かつてレオナだった記憶が、ロビタに人間の想い出をくすぐる話や遊びをさせ、それゆえ家族や子供達に親しまれていったのだった。
何年も経ち、ロビタの回路に寿命が来たとき、ロビタはロボット業者に引き取られたが、ロビタに興味をもった業者はロビタの一切を複製し、販売する事にした。
新しいロビタが次々と生産されていったが、その全てが同じ記憶をコピーされ、同じ想い出、同じ遊びを受け継いでいった。ロビタは子供達に好かれ、人間に愛されて行くようになった。
西暦3009年、科学技術が進歩し、もはや時代遅れの旧式となった今でもなおロビタは生産が受注に追いつかない程の人気商品だった。
しかし、この年にある事件が起る。
一人の子供がロビタを慕うあまり、ロビタの後を追って、人体に危険な区域(アイソトープ農園)に入り込み、死亡するという事件が起こったのだった。
子供を死なせたロビタはどれか、特定はできなかった。
ロビタが子供を危険区域に連れ込んだのか、子供自身の過失なのか、論議に決着はつかず、時が流れていった。
3030年、裁判所は、事件の日その場に居合わせたロビタ全員を有罪とし、溶解処分とする判決を下した。
判決にロビタの一台は「ロビタは全てが1人だ。一人のロビタが死刑になれば、全てのロビタが死ぬだろう。」と宣言する。
判決を受けたロビタたちの溶解処分が始まると同時に、各地で異変が起きた。
各地で作業に従事していた数万台のロビタ全てが作業を放棄し、自ら溶鉱炉へと死の行進をはじめたのだった。
こうしてロビタの歴史は終わりを告げたが、1台だけ生き残りがいた。
月基地で作業していた1台のロビタはそのため行進に加わることが出来なかったが、かつて自分は人間であったという思いが心に去来していた。
ロビタは自分が人間であったという自己の証明のために主人の人間を殺害する。
そして地球へ殺害を報告し、自分が人間であることを認める事を望む。
その要求が受け入れられないロビタは、最後の手段として自ら電源を切り、「自殺」を謀るのだった。
それから300年が過ぎた3344年、あるロケットが月に着地した。
ロケットから降り立ったのは世捨て人の猿田博士であった。
猿田は月面に転がっているロビタを発見し、電源を入れ、ロビタを復活させる
ロビタはこれまでのいきさつを話し猿田に仕える事を望む。
こうしてレオナの最後の子孫は猿田博士とともに宇宙へと旅だって行くのだった。
<読みどころ>
第2部「未来編」で登場するロボット、ロビタの誕生を描く物語です。
レオナという人間とロビタの物語が平行して語られ、最後にそれが一つに集約されるという形式をもっています。
一端は死んだものの体の半分以上を人工的なものと取り替え、脳の大半を人工のCPUで補われて蘇った主人公は自分が果たして人間といえるのか悩みます。
主人公は「壊れた車を、半分以上が電車の部品で継ぎ足した時、それはもはや車ではなく電車だ」と語ります。
また、姿は不格好なロボットでもかつてのレオナの記憶を持ち続けるロビタは自分が人間であると主張します。
医学の進歩により、人間の存命は延びてきましたが、どこまでをもって治療というのか、これは手塚治虫の持ち続けた疑問だったのでしょう。
余談
この物語では実験段階として登場する人工脳ですが、現実の世界では実用化はともかく技術的には後30年程の内に可能となる見込みとの見解を研究チームが表明しているそうです。
「復活編」は400年先の未来という設定ですが、もしかしたら私達が生きている内に現実の物となるかもしれないですね(^_^;)
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