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2009/03/31

うしかい座

うしかい座

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 春の大曲線を北斗七星の柄のカーブを伸ばしていった辺りに、オレンジ色をした明るい星が輝いています。
この星は,うしかい座の「アークトゥルス」です。
ギリシャ語で「クマの番人」という意味のこの星は全天で5番目に明るく、距離も30光年と比較的近くにあります。

 日本では、この星が天頂近くに輝く時期から,「五月雨(さみだれ)星」、「麦星」と呼んでいました。
中国では、「大角」と呼び、中国の星座解釈では、さそり座を巨大な竜(青竜)の姿に見立て、その角をこの星と、おとめ座のスピカとしていたためです。

 さて、うしかい座の云われには,色々な説がありますが、大神ゼウスの妻ヘラの呪いによって変えられた大熊(おおぐま座)を追う息子のアルカスの姿,あるいは,天をせおわされている,石になった巨人アトラスの姿ともいわれています。

 巨人アトラスは、嘗て大神ゼウスの率いるオリュンポス神族との戦争で敗れた巨神族の一人で、ゼウスにより、永久的に天を担いで支えていなくてはならない、という辛い役目を負わされていました。
或る時、勇者ヘラクレスがアトラスの処に来て、彼はティリンスの王エウリュステウスの命令で、12の荒業のひとつ、西の果てに棲むヘスペリデ-スの園にあるという、金の林檎を取りに行く途中でした。
その旅の最中、岩山に縛りつけられていた賢者プロメテウスを助けたことがありました。
プロメテウスはお礼として、金の林檎を手に入れる為には、アトラスに強力を頼むと良いと教えてくれたのです。
アトラスはヘラクレスの話しを聞くと、「私が金の林檎を取ってくる間代って天を支えていてくれ」とヘラクレスに言いました。
ヘラクレスは快く承諾し、アトラスが戻ってくるまで天を支え続けることになりました。

 アトラスは金の林檎を携えて戻ってきたのですが、彼はこの天を支え続ける仕事に飽き飽きしていたので、ヘラクレスに仕事を押し付けてしまおうと考えたのです。
アトラスは「私が代りにこの金の林檎を届けてやろう」と言って、そのまま立ち去ろうとしました。
ヘラクレスはアトラスの企みを見抜いていましたが、天を支えたままではアトラスを追いかける事もできません。
そこでアトラスにこう言いました。
「自分は、天を担ぐ事に慣れていない、楽に担ぐ方法を教えてくれないだろうか?」
単純なアトラスは「いいだろう」と言って金の林檎を置くと、慣れた様子で天を担いで見せました。
するとヘラクレスは素早く金の林檎を拾い上げ、逃げてしまったのです。
アトラスが騙されたと気がついても、もう後の祭りでした。
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2009/03/29

春の星座の代表・しし座のお話

しし座

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 春の夜は、春霞の為、ぼんやり明るく、星の輝きが、冬に比べると今ひとつはっきりとしませんが、この時期の月夜を表現する言葉に、「おぼろ月夜」と中々、風流な名前がありますね。

 さて、その様な星空で、3月下旬の今頃なら、21時頃、南の空にやや明るい星が二つ輝いています。
このうち、東より(しし座の後ろ脚付近)の明るい星が、土星です。
そして、南側の次に明るい星が、「しし座」の心臓に輝く「レグルス」と呼ばれる星です。

 「レグルス」という名前は、日本語で小さな王という意味を持っていて、「しし座」は、この「レグルス」を目印にして、頭上に向かって星を結んでいくと、「?マ-ク」を裏返した形が目印です。
この形を、ヨーロッパでは、草を刈る鎌の形と見て、「ししの大鎌(おおがま)」と呼んでいます。

 ししの姿は、この大鎌が頭から前足の部分となり、そして、東(左)に目を向けると、細長い三角形に並ぶ星々が見つかります。
この部分をお尻からしっぽと考え、「デネボラ」がしっぽの先に輝く星です。

 春の星座の中で、「しし座」は大変判り易い姿をして、見つけやすい星座の一つですが、ギリシャ神話では、余り良い姿とは考えられてはいませんでした。

「しし座」の昔話

 昔、ネメアという谷に、一匹のライオンが住んでいました。
このライオンはとても凶暴で、人家の近くに時々出没し、家畜を襲っていました。
やがて、味を占めたライオンは、なんと人間も襲うようになったのです。
人々は、この人食いライオンを恐れていましたが、力を恐れ近づくことすらできません。

 ある日、ギリシャ一の怪力の持ち主、ヘルクレスがネメアを訪れ、村人の為にこの人食いライオンを退治しに出かけました。
人食いライオンの住む洞窟に来たヘルクレスは、まず弓矢を放ちました。
しかし、ライオンの皮膚は硬く矢をはねかえしてしまうので、ヘルクレスは、持っていた棍棒でライオンを何度も殴りつけましたが、これでも効果がありません。
終に、ヘルクレスは、素手でライオンに立ち向かい、その太い腕で、ライオンの首を締め付けました。ライオンも抵抗しましたが、なんと3日間もずっと首を絞め続け、さすがの人食いライオンも、ぐったりとして動かなくなりました。
村人は、人食いライオンの恐怖から救われたのです。

 之を知った、大神ゼウスは、ヘルクレスの功績を称える為に、ライオンを天にあげ、星座とし、この星座は、しし座と呼ばれるようになりました。

2009/03/28

二重星

二重星(実視連星)

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 春の星座には、先にご紹介した、ミザールとアルコルの他にも有名な二重星があります。

アルギエバ(しし座γ星)

 しし座のレグレスから順に上に辿って行くと「?」を裏返した星の並びがあります。
それがヨーロッパで使われる、草刈鎌に大変よく似ているので、それに準えて、この部分を「ししの大がま」と呼ばれています。

 アルギエバは、地球から80光年の距離が在り、レグレスから辿って2番めにある「たて髪」という意味の星で、2.6等星のオレンジ色の星と3.8等星の黄色が4″離れて見え,色の対比が素晴らしく、北天一美しい連星(619年周期)とも言われています。

 又、しし座流星群の放射点に近い事も知られています。

ポリマ(おとめ座γ星)

 おとめ座のYの字の中央にある「予言の女神」という意味の星です。
3.6等星の全く同じ明るさの白色の星が、172年の周期で巡り合っており、2つの星が寄り添うように輝く姿はとても印象的です。
両者の間隔は、少しずつ狭まって来ており、2008年には0.4″と大望遠鏡を使用しないと、識別は困難になりました。

コル・カロリ(りょうけん座α星)

 猟犬座のほぼ中央で輝くα星は、コル・カロリと言う名前を持ち「チャールズ王の心臓」という意味の3等星です。
名前の由来は、1660年にスティアート朝チャールズ2世が復権して、ロンドンのお城に戻った事を記念して、エドモンド・ハレーが命名しました。
古い星図には、王冠を冠った、ハートの絵が描かれています。

 望遠鏡で観察すると、白色の2.9等星と紫色の5.4等星の二つが約20″離れて並んでいます。
 尚、コル・カロリは、猟犬座付近に散会する、銀河観測の座標として利用されています。

プルケリマ(うしかい座ε星)

 うしかい座の一等星アルクトゥールスのすぐ北にある3等星です。
ロシアの天文学者O・W・シュトルーヴェは、プルケリマ:最も美しいものと命名しました。
濃黄の2.7等星と青色の5.1等星の2つの星が非常に長い周期で寄り添っています。


参考文献: 「藤井 旭の星座ガイド春」(誠文堂新光社)
2009/03/27

春の大曲線

春の大曲線

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 先の春の大三角とならんで、もう一つ春の星座を見つける時に便利な、春の大曲線のご紹介です。
春の大曲線とは、北斗七星からその柄の曲がり具合をそのまま延ばして、うしかい座のアルクトゥールスおとめ座のスピカと続いて行く天上の大曲線なのです。

 星図の上では比較的簡単に見えるのですが、本物の星空ではちょっとむずかしいところもあります。それは星座の大きさや、丸く見える全天の星空の一部分を平面の紙やパソコンのディスプレーで表現していることの違和感から一致させ難いと言えるのです。

 春の大曲線の発見方法を正確に説明しますと、真上(天頂)を見上げ、その北側にある北斗七星を見つける事が一番目の行動です。
北斗七星が見つかったら、それから柄を辿って行く事によって、その付近でもっとも明るいオレンジ色に輝く星を見つけるという方法でアルクトゥールスを見つけます。
更に大曲線を延ばして行って、白く輝く明るい星が見つかればそれがスピカなのです。

春の夜空は、冬の様に凛々とせず、何処か、霞のかかった時が多いですが、北斗七星を見つけられれば、それ程苦労せずにアルクトゥールスやスピカを見つける事ができると思います。
2009/03/26

ミザールとアルコル

ミザールとアルコル

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 おおくま座では、まず、北斗七星の柄杓の先から、2番目の星、ミザールに注目して下さい。
それ程、目の悪くない方であれば、2等星ミザールのすぐ傍に4等星アルコルと言う、小さな星が一つある事に気がつくと思います(肉眼重星、分光連星)。

 アルコルと言う名前の由来は、乗り手、騎手と言った意味ですが、ミザールの傍にアルコルが、くっついている事は、古くバビロニアの時代から既に知られており、馬と乗り手の関係でとらえられていました。
尚、ミザールは腰帯、アルコルは微かなものとの意味もあり、両方の星の距離は0.3光年、地球(太陽系)から78光年の位置に在ります。

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 更に、アラビアでは、騎兵採用の視力検査にこの星を使ったとの記録が、残っています。
最もその頃、ミザールとアルコルは、もっと接近していたそうなので、この2つの星を見分ける事ができた人間は、相当に目の鋭い人物だったと思います。
ですから、今、自分は、見分けられるぞと思っても、貴方が、騎兵採用試験に合格するかどうか判りませんね。
2009/03/25

春の星座

春の星座を探す

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 3月に入っても夕方の星空では冬の星座がしっかりと輝き、春の星座はまだ観る事が出来ません。でも、刻々と時間が経ち、深夜に向かうに従って、東の空から春の星座が昇ってきて天上を闊歩しはじめます。

 春の代表的な星座をご紹介しますと、「ふたご座」の東側にある「かに座」、南の空に「うみへび座」、「コップ座」それから「からす座」等が見られます。

 北の空では「北斗七星を含むおおぐま座」、おおぐまの尻尾の先から尻尾のカーブに合わせて南の方に伸ばしていくと見つかる「うしかい座」、更にそのカーブを延長すると「おとめ座」に到達します。

 ほかに春の代表格といえる「しし座」や星が集まっているように見られる「かみのけ座」等があります。
 1等星は、「しし座のレグルス」、「おとめ座のスピカ」、「うしかい座のアルクトウルス」の3個が在ります。

 夏の星座や冬の星座に「大三角形」がありましたが、春にも「大三角形」があります。
春の大三角形は、スピカとアルクトウルスともう一つは、しし座の尻尾の部分の星デネボラ(2等星)を結ぶとできます。

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ほぼ正三角形の星の配列なので、これを覚えれば星や星座を見つけるのが容易になります。


2009/03/24

北斗七星

北斗七星

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 前回、冬の星空について、凍てつく空に凛々とと書いた頃から早いもので4ヶ月が過ぎました。
西に陽が沈み、空がだんだん黒味を増して来ると冬の星座の代表、オリオン座が既に頭上より西に傾き、東の空には、獅子座が輝いています。

 さて春に見られる北斗七星は冬のオリオン座と伴に人々に最も知られている星座と思います。
北斗七星は、北極星を見つける為の星座として、昔から多くの国、多くの人々に知られていました。星座で云うと北斗七星はおおぐま座の一部となっていて、ギリシャ神話では次のようなお話しがあります(以前もご紹介しましたがもう一度)。

 女神のアルテミスに仕えたニンフ(森や泉の妖精)だったカリストは、ある日、天の大神ゼウスに愛され、子供を身篭ってしまいました。
やがて男の子が誕生しアルカスと名付けられましたが、其の事を知ったアルテミスは、たいそう怒り、カリストを熊の姿に変えてしまったのです。
 
 それから15年程が過ぎ、息子のアルカスは逞しい青年狩人に育ちました。
或る時、狩りに出かけると森の中で熊に出会いましたが、その熊は母親のカリストだったのです。
熊は直ぐに自分の息子だと気づき、近寄っていきましたが、襲いかかる熊だと思ったアルカスは、自分の母親だとも知らないで弓矢で射ようとしました。
余りにも惨い運命に、大神ゼウスはこの親子を天に上げ、おおぐま座とこぐま座として、星座にしたのだと云われています。

 こぐま座のしっぽの先の2等星はポーラスター(北極星)として、四季を通じてその星を見ることができます。
2009/03/23

春分の日

春分の日

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 今年は、世界天文年。
ガリレオ・ガリレイが、望遠鏡を宇宙に向けた、1609年から数えて400年目を記念して設定されました。
ガリレオは、望遠鏡で数々の発見を成し遂げましたが、その一つに太陽の観測があります。

 3月に入ると、朝の日差しが眩しく、太陽が高く昇るようになり、1、2月の頃とは光の加減が明らかに違う事に気づかれている事でしょう。
今年の春分は3月20日(金曜日)となっていますが、春分の日とは実際どの様な日なのでしょう?

 一般には「一日の内で昼の長さと夜の長さが同じ」といった事が云われていますが本当?
天文学的に春分は「太陽の天球上の通り道である黄道と天の赤道が交わる春分点を太陽が通過する時」(ニュートン2009年4月号より抜粋)なのですが、しかし、これではちょっと判り難いですね。

 この現象は、太陽を巡る地球の公転軌道と地球自身が自転している自転軸の角度が、ずれているために、地球上から見る太陽の高度角が一年を通じて変化しているのです。
アフリカなどの赤道帯では、太陽が真上に差しかかるときが春分と秋分の時なのです。
冬至の時は南半球に、逆に夏至の時は北半球に太陽は差しかかって見えます。

 日本は北半球の北緯35度前後の位置にありますので、夏至の時に太陽の高度角がもっとも高くなり、冬至の時は太陽が南中する正午頃でも低く見え、しかも寒いのです。
こうした地球の自転軸の傾きのおかげで春夏秋冬という四季ができているということに感謝したいと思います。

 日本では、春分の時を、春分の日として祝日に定めています。
昼の長さと夜の長さが一緒かと言うと、だいたい同じといえますが、天文学上の定義からに言えば昼の方が約14分、長くなっています。
これは地球大気により太陽が屈折現象によって少し浮き上がって見える事と、太陽面が僅かでも水平線上などに見えている間は、昼間に定義していることが原因なのです。 
又、地球の公転が整数日でなく、端数がついているため、閏年を設けている事はご存じの通りですが、春分の日も3月20日になる年と3月21日になる年があります。
ちなみに来年は3月21日が春分の日の予定です。

参考:星空の四季 藤井 旭 ・ニュートン


2009/03/22

ラーマヤナ(34)・補遺3

「つま先に触れる」

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 インド人の挨拶の仕草として「両手を合わせてナマステ」のイメージがあるかと思いますが、それよりもっと丁寧なものとして、「つま先に触れる」仕草があります。

 インド映画等で、わりと頻繁に見かける動作で、若い主人公が久しぶりに親戚のおばさんに会ったときに、すっと近づいて上半身をかがめ、つま先に触れる(ふりの)しぐさをし、そうされたおばさんは、「まあまあ」と遠慮するような仕草(祝福を与えるしぐさというか、守護を与える仕草)をします。
もちろん、つま先に触れられるほうが、目上の人。

 本格的には、足元に正座、または五体投地をします。
 今回ご紹介の中では「つま先に触れる」場面を二か所位、(本当はもっとたくさん出てくるのですが、全部入れるときりがないので)有ります。

 一つめは、教育を終えた四王子がヴァシシュタ様の庵を去る時。
このとき、つま先に触れられるのは、ヴァシシュタ様のほう。
ヴァシシュタ様は王子にとって師であり年上でもあるので、当然といえば当然なのですが、やはり王族よりも聖者のほうが格上、と言う事なのでしょう。

 二つめは、王妃の「二つの願い」に対して、王が「勘弁して」と懇願するとき。
夫が妻のつま先に触れるのは、(公式には)結婚式のときの一度限りですので、王であり夫である人が、この仕草をするのは、可也の事態ですが、王の懇願をつっぱねると言う事で、この王妃はとんでもない悪女ということになります。

 
2009/03/21

ラーマヤナ(33)・補遺2

ラーマとシータが引き裂かれる理由

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 シータを失ったラーマは、長い間、再婚する事もなく、シータの黄金像を傍らにおいてコーサラ国を統治します。
なぜにラーマはヴィシュヌ神の化身であるにも関わらず、妻を失うという憂き目に遭遇しなければならなかったのでしょうか? 

 ここにも一つ、因縁話があります。
 かつて、ある有名な聖者の妻が神々の怒りを買った悪魔を匿い、これを知ったヴィシュヌは、罰として、その女性の首を斬りおとしたのですが、聖者はたいへん怒り悲しみ、ヴィシュヌに対して呪いの言葉を吐きました。

「私の妻を殺した報いとして、命に限りのある人間として生まれてくるがいい。そして私と同じように、妻を失い、長い期間を一人身で過ごすがいい」

 この様な訳で、ラーマは長いこと愛するシータ無しの人生を送らねばならなかったのです。
インド神話は妙にスジが通っているようなところがあります。
「へ理屈」とか「つじつま合わせ」とも言いますが・・・。一言で済ませるならば「カルマ(業)」ということなのでしょう。
我身に幸運や不運が訪れるのは、カルマであって、人間の力で変える事ができない、という運命論的思想が背景にある様に思います。

 個人的には、この「運命を従容として受け入れる」カルマ思想、インドの多大なる長所であり、短所であると考えています。
唯、何か苦しいことや悲しいことに直面したときには、たいへんに救われるモノの考え方であることには違いありません。

2009/03/20

ジロくん

今日は、ジロくんが、家族に加わって3周年です。     

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 月日の経つのは、本当に早いもので、ジロくんが、我家に遣ってきて、3年が経ちました。
2代目のジロくんが、虹の橋は渡って、時の輪の向こうに行ってから、9ヶ月間、犬の居ない期間を過ごしましたが、部屋の中に下がっている、リードを見るにつけ、何とか、仔犬が欲しいと思い続けてやっと叶ったのが、3年前の2月。
ブリーダーの方から連絡を受け、迎えにいく日を本当に待ちに待ちました。
当日は、今日の様に曇り空、お彼岸のお参りも程々(ご先祖様ごめんなさい)に福岡市から、大野城市に向かった事の気持ちは、今でもはっきり覚えています。

 ブリーダーの方の犬舎で、兄弟達と遊んでいる時、声を掛けたら、真っ先に飛んで来た仔犬が、3代目のジロくんになりました。
結局、帰宅時は、雨になりましたが、親犬との別れ際の泣声、福岡市から北九州市迄、車の中で静かに外を眺めていた事は、今でもはっきりと思い出します。

 この3年間、病気もせず、元気いっぱいに成長してくれた事への喜びを4年目、5年目へと持続させていきたいものです。

 それまで、飼い慣れたコリー犬から、初めてのセットランド犬で、最初、可也の戸惑いもありましたが、ブリーダーをはじめ、日本コリークラブ・北九州支部の皆様のご支援、ご教授に対し、このブロクから、心より御礼申し上げます。

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2009/03/20

ラーマヤナ(32)・補遺

ラーマ誕生前の物語

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ラーマ誕生のところからお話を始めましたが、実際には誕生前から物語は始まっています。

 ラーマは、ヴィシュヌ神の化身なのですが、ヴィシュヌ神が人間に姿を変えたのには理由があり、物語の後半でラーヴァナという悪魔(ラクシャサ=羅刹、と訳されるようですが、神でも人間でもないけれど知性を持った存在)の王が登場します。
ラーマはこのラーヴァナを退治するという使命を受けてこの世に生まれます。

 ラーヴァナは、かつて神の為に苦行を行い、その行いゆえに、神にも他の悪魔にも殺されることがない、という特権を授かりますが、それを好いことに悪を働き、人間も神様も困り果ててしまいます。
しかし、先の約束があるのでどうすることもできません。

 そこで神々は話し合いの末、ヴィシュヌ神が人間に姿を変え、ラーヴァナを退治することにします。
と言うのも、ラーヴァナは「人間などに殺される訳がない」と見縊っていたので、「人間に殺されない」という特権はあえて得ていなかったのです。

 こうしてヴィシュヌ神の化身、ラーマは人間として生れ落ち、妻シータを誘拐したラーヴァナを退治します。

 つまり、「ラーマーヤナ」はラーマ王子の物語、という体裁をとっていますが、神様による羅刹成敗の物語でもあります。
ですから、ラーマが城から追放されるのも、シータが誘拐されてしまうのも、すべては羅刹成敗という目的にたどり着くために定められた運命だったのです。

2009/03/18

ラーマヤナ(31)・ラヴァとクシャ・其の五そして終わり

ラヴァとクシャ・其の五

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<死神の訪問>

  双子王子の帰還に、国中が喜びに満ちあふれ、ラーマは是まで以上によく国を治め、人々は飢えに苦しむ事も無く、平和な日々を何年も過ごしました。
ある日の事、ふと鏡を覗き込んだラーマは、愈々自分がこの現世を離れるべき時がやって来た事を実感しました。
ラーマ、つまりヴィシュヌ神は、人間としての生を終え、神々の世界へと戻るべく、死神をラーマの基へ送るよう、言いつけました。
死神は僧侶に姿を変え、王宮へとやって来ました。
王宮の門ではラクシュマナが死神を迎え、ラーマの処へと案内し、死神はラーマの部屋に入ると、このように言いました。

「ラーマよ。私はヴィシュヌ神に遣わされた死神です。これから私が話す事は、誰にも聞かれてはなりません。一言でも耳にしてしまえば、すぐさま命を落とすでしょう」

 そこでラーマは、ラクシュマナに厳重に入り口を守るよう、伝えましたが、ラーマが部屋に戻るとすぐ、聖仙ドゥルワサが現れました。

「ラクシュマナよ。ラーマ王は在室かな? 急いで御目にかかりたいのだが」
「申し訳ございません、聖仙様。兄王は、只今、重要なお客人と会談中です。何方様もお通ししないよう、仰せつかっています。今しばらくお待ち頂けますでしょうか」

 出来る限り丁寧に応対したラクシュマナでしたが、その言葉に、聖仙はすっかり腹を立ててしまいました。

「ラクシュマナ! 今直ぐ私を通さなければ、お前と、王国に呪いをかけるぞ!」

 それでもラクシュマナはラーマの言いつけを守るために、きっぱりと断りました。

「聖仙様。それでもお通しする事は叶いません」
「よかろう! それではお前はいますぐ命を落とすがいい!」

 呪いの言葉を吐いた聖仙は、ラクシュマナが止めるのも聞かず、ラーマと死神が話し合いをしている部屋の中へと入ってしまいました。
部屋の中へ入ってきた聖仙を見て、ラーマは大変驚きましたが、恭しく挨拶をしてから尋ねました。

「失礼ですが、聖仙様。何人たりとも部屋にお通しせぬよう、ラクシュマナに命じたのですが」
「ああ、確かに邪魔をされたが、今すぐ天国へ行くよう、呪いをかけてやったよ」
「何と言う事でしょう! 聖仙様、今直ぐこの部屋を去ってください。今、ここで起きていることは、誰の目にも触れてはならないのです」

 ラーマに言われて、聖仙は、渋々と部屋を出て行きました。
やがて、ラーマから連絡を受けたシャトルグナが王宮へとやって来ました。

「兄上! 最期の時をお迎えになるならば、どうぞ私も一緒にお連れください!」

 シャトルグナの願いを受けて、ラーマは、シャトルグナも連れて行くことを決めました。
そしてラーマは忠実なる家臣、ハヌマーンにこの様な言葉を伝えました。

「ハヌマーンよ、お前は長生きをしなさい。私の事を忘れる事無く、この世界で、何時までも何時までも幸せに過ごすのだよ。それが私の望みだ」

  愈々ラーマ達は、最期の地、サラユー川へと出発しました。

終わり

2009/03/17

ラーマヤナ(31)・ラヴァとクシャ・其の四

ラヴァとクシャ・其の四

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<女神>

 親子の和解を喜んでいる場所へ、シータが姿を現し、そのシータの姿を目にしたラーマは喜びで体が震えんばかりでしたが、どう声をかけていいものか、迷っておりました。
聖仙ヴァールミキが二人の間に入って話を始めました。

「王よ。神に誓って申し上げるが、ラヴァとクシャは間違いなくお二人のお子。シータが夫である貴方以外の者の事を考えた事など、一度たりともない。さあシータ、すぐに王と伴に都へと帰るがよい。」

 しかしシータは、まだラーマからは何も言葉をかけられていない為、戸惑っていました。
ラーマは聖仙に向かって言いました。

「ヴァールミキ様。貴方のお言葉を聞くまでもなく、私はシータの純潔をずっと信じておりました。しかし、国民の心ない噂を抑える為には、あの様にするしかなかったのです。あの時森へシータを連れて行ったのはラクシュマナだった。さあ、ラクシュマナ、そのお前がシータを迎えてくれるだろうか」

 ラーマに促されて、ラクシュマナはシータに手を合わせて言いました。

「さあ、どうか総てを忘れて都へ戻りましょう」

 それでもシータは迷って様子で動きませんでしたが、皆に説得されて歩み始めました。
やがて、一行はサラユー川の川岸に辿り着くと、そこでシータは立ち止まり、大地にむかって祈りをささげました。

「母なる大地の女神よ! どうか私を貴方のお膝元にお迎えください。私が一瞬たりとも心を動かすことなく、我が夫だけを愛していた事の証をお示しください。どうか私を受け入れて、この大地に包み込んでください!」

 シータの言葉が終わるやいなや、大地が揺れ、激しい雷鳴が轟き始め、突然大地に亀裂が走り、其処から眩い光が迸り、光の中から大地の女神が姿を現し、シータを抱きかかえると、其のままゆっくりと大地へと戻って行きました。
一同はこの光景に驚き、嘆き、涙を流して叫びました。
ラーマは、余りの出来事に言葉を失い、呆然と立ちつくしていましたが、やがて大声で女神に呼びかけました。

「大地の女神よ! どうかシータを返してください。そうでなければ、私も同じように連れて行ってください! シータなくしてはもう生きて行く事はできません。どうぞ、願いを受入たまえ!」

 すると、厳かに女神の声が響きわたりました。

「悲しむのではありません、ラーマよ。シータは何時でも貴方の傍に居ます。そのすばらしい行いゆえ、天国に迎えられたのです」

 女神の言葉に、皆落ち着きを取り戻し、愈々都へと戻る事になりました。

2009/03/16

ラーマヤナ(30)・ラヴァとクシャ・其の三

ラヴァとクシャ・其の三

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<父と子の対面>

 余りにも怖ろしい出来事に驚いたシータは、急いで聖仙ヴァールミキの元へと駆けつけました。

「嗚呼、何と怖ろしい事でしょう、聖仙さま!」

 シータは震える声で今迄の事をすっかり話しました。しかし聖仙は落ち着いた声でシータを宥めました。

「まあ、落ち着きなさい、シータよ。凡ては成るべく様に成るのだ。子供達は偉大な王の息子らしく立派な兵士としての振舞いを為したにすぎないのだから」
「しかし、息子達は罪もない戦士達を傷つけたのですよ」
「いいや、彼らの行動は決して王国の名を汚すことはない。心配するでない。明日になったら私が出かけてこようではか」

 少しも動じる事の無い聖仙の言葉に、シータは大きな不安を抱えながらも、少年達を連れて庵へと戻ったのでした。
翌日、再びラーマと双子の戦いが始まり、前日と同様、ラーマは決して二人を直接矢を射掛ける事は無く、戦いは一日じゅう続き、終にラーマは無敵の矢を番えて叫びました。

「なんと行儀の悪い子供達なのだ! この上は神の思し召し通り、死を与えてやろう!」

 ちょうどそのとき、聖仙ヴァールミキが現れました。

「待た、王よ! それだけはなりませぬぞ。もう争い事はお止めなさい」

 思いがけない聖仙の言葉にラーマは弓矢をおろし、馬車から降りて言いました。

「これは聖仙様。一体どういう事でしょう?」
「この少年達は、紛れもない貴方自身のお子ですぞ。父と息子が戦う事など許されましょうか」
「なんとこれが我が息子とおっしゃいますか!」

 ラーマは何も気づいていなかったかのように驚きの声を上げました。

「その通だ、王よ」

 そして聖仙はシータが森に現れてからの事を総て語りました。

「彼等は貴方の血を引いたお子であるからこそ、このように強く勇ましいのだ。さあ、二人を許し、抱きしめてやってはどうだ」

 聖仙はラヴァとクシャを呼び、ラーマを彼らの父として紹介しました。

「此方はお前達の父上、ラーマ王だ。さあ足元に礼拝してお許しを頂きなさい」

 ラヴァとクシャは聖仙に言われた通り、ラーマの足先に触れて礼拝し、此れまでの振舞いを詫びました。
ラーマは二人に祝福を与えるとしっかりと抱きしめ、父と子の和解を見届けた聖仙が意識を失って倒れているバラタ、ラクシュマナ、シャトルグナに聖水をふりかけると、三人は何もなかったかのようにすっかり元気を取り戻し、二人の息子を膝に抱えたラーマの足元に深く礼拝したのです。

2009/03/14

ラーマヤナ(29)・ラヴァとクシャ・其の二

ラヴァとクシャ・其の二

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<ラーマの出陣>

 王宮では、バラタが沈痛な面持ちでラーマに語りかけました。

「兄上、この様な不幸な出来事は、シータを森へと追放した報いに違いありません」

 ラーマは言葉を失ってしばらく考え込みましたが、やがて王座から立ち上がりました。

「バラタよ、お前は戦場へ出かけるのが恐ろしくてそのようなことを言うのではないか。よかろう、私自身が兵を率いてその少年とやらに対面しようではないか」

 ラーマの言葉に慌てたバラタは答えました。

「いいえ、兄上が自らお出かけになる事はありません。私が行って参りましょう」
「そうか。それではハヌマーンと猿軍の兵士を連れて行くがよい」

 バラタとハヌマーンの軍が近づいてくるのを見て、ラヴァはクシャに言いました。

「おや、あれはラーマの猿兵だよ。あいつらはランカ島の悪魔を退治したっていうじゃないか。その軍を僕らがやっつけちゃったら見ものだね」

 こうして双子と猿軍の戦いが始まりましたが、猿兵達は次々と二人の放つ矢に倒されていき、バラタは顔色を失い、ハヌマーンは少年達の弓術の見事さに驚嘆しました。

「ハヌマーンよ、私はいくらなんでも少年を手にかける事はできない。彼らを捕らえて、ここへ連れてきてはくれないか」

 ハヌマーンは棍棒を手に二人へと近づきましたが、ハヌマーンすらも彼らの放つ矢には立ち往生してしまい、なかなか捕らえることはできません。
止むを得ずバラタが放った矢は、ついにラヴァに命中しましたが、ラヴァが倒れたのを見てクシャが放った矢はバラタの胸に深々と刺さり、バラタは意識を失ってしまいました。
クシャがラヴァに刺さった矢を引き抜き手当てをすると、あっという間に傷が治ってラヴァは再び立ち上がりました。

 バラタ敗北の知らせを受け、終にラーマ自らが馬車を率いて出向き、話に聞く少年二人に向かい合うと、ラーマはなにやら親しみを感じ、彼らに優しく話しかけました。

「少年よ! 君たちは何者か? 父上と母上の名は?私の兵士達を総て倒してしまうとは、なんと素晴らしい兵士だろう」
「おべっかを使っても無駄だよ。さあ、黄泉の国へ出掛ける覚悟はできたかい?」
「いや、私は君達の事を知る前に戦いを始める訳にはいかない。まずは身分を名乗りなさい」
「いいでしょう。僕たちの母上、ヴァンデーヴィーはミティラー国のお姫様だ。僕らの育ての親は聖仙ヴァールミキ。父上のことは何も知らないよ」

 少年達が我子である事を知ったラーマは、計り知れない喜びを覚えましたが、ここで口にすることはできませんでした。

「王様、自己紹介はこれで良いかな。さあ、弓を構えたらどうだい。怖かったら白馬を置いて逃げてくれれば何もしないけど」

 終にラーマと少年達の戦いが始まりましたが、ラーマは二人の放つ矢を射落とすばかりで、彼等に直接矢を射掛ける事はありません。
これに焦れたハヌマーンが棍棒を持って襲い掛かりました。

「また出てきたな、猿め!」

 クシャとハヌマーンが取っ組み合いを始めましたが、やがてハヌマーンは両手両足を縛り上げられてしまいました。

「さて、この猿をどうしてやろうか」
「母上へのお土産にしようじゃないか」

 少年たちは縛り上げたハヌマーンを連れて、庵へと引き上げていきました。
庵のそばまで帰ってくると、二人は大声で呼びかけました。

「母上! 今日はおもしろいお土産がありますよ! 外へいらしてください」
「面白いお土産ですって? 何事ですか?」

 いぶかりながら外へ出てきたシータは、縛り上げられたハヌマーンを目にしてたいへん驚きました。

「母君よ! あなたのお子は馬祀祭の白馬を捕らえ、それゆえに王国と戦闘を起こしてしまいた。シャトルグナさま、ラクシュマナさま、バラタさまの三人は意識不明に陥り、今はラーマさま自らが戦場に出向いておいでです」

 思いもよらぬ話にシータは全身を震わせ、二人にすぐにハヌマーンを解放するよう、命じました。
少年たちが不服そうに縄をほどくと、ハヌマーンは急いでラーマの元へと戻って行きました。

2009/03/13

ラーマヤナ(28)・ラヴァとクシャ・其の一

ラヴァとクシャ・其の一

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<シャトルグナとの戦い>

 まだ幼い少年達の姿を目にして、シャトルグナは優しく話しかけました。

「君達! もう気は済んだかい。そろそろ馬を返してくれると有難いんだが」

 しかしラヴァとクシャは聞き入れません。

「陛下! 貴方様は何方ですか? どこの都から来たんですか? あの馬の首に掛けてある物は何なのですか?」

 シャトルグナは儀式のことについて説明しました。
するとラヴァはこう言いました。

「成る程、じゃあ僕達と戦うのが怖いから、馬を置いて都へ帰るって事だね」

 人を見下したような言葉にかっとなったシャトルグナは弓に矢をつがえましたが、その矢を放つよりも速く、少年たちの矢がシャトルグナの馬車を砕き、これでさらに怒りを大きくしたシャトルグナは、兵士にも命じて少年達に矢を射掛けました。
しかしラヴァとクシャは全く怯む事はなく、終にシャトルグナは少年達の矢に倒れ、意識を失ってしまいました。
城に逃げ帰った兵士から話を聞いたラーマは、信じられない様子でラクシュマナに命じました。

「最強の兵士を率いて森へ向へ!その子供達は聖仙の御子の様だから、殺さずに捕まえて、此処へ連れてくるのだ」

 森に到着したラクシュマナは地面に倒れたシャトルグナを目にして、ひどく驚きましたが、ラヴァとクシャの幼く愛くるしい姿を見ると、怒りを忘れてやさしく話しかけました。

「少年達よ! さあ馬を返しなさい。私達の王国は、何時でも聖仙には尊敬をもって接してきたのですから」

 処がラヴァとクシャは腹を抱えて笑いころげました。

「やあ、そうすると、貴方がシータ王妃を森に置き去りにした陛下だね。僕達と戦うの? 急いでアヨーディアへ帰ったら? そうでないと、さっきのご兄弟みたいになっちゃうよ」

 ラクシュマナは怒りを抑えて答えました。

「私は子供と戦う事は出来ないよ。誰か君達の代わりに戦ってくれる人を連れて来てはどうかね」
「代わりだって! それはこっちの台詞だね。貴方が僕達の矢に倒れたときに運んでくれる人を呼んだほうがいいよ」

 そういうとクシャは矢を放ち、ラクシュマナの冠を射落とし、もはやラクシュマナは怒りを抑えることができず、二人に向かって矢を放ち始めましたが、すべて空中でラヴァとクシャの矢に落とされてしまいました。
やがて、終に自らの体に矢を受け、ラクシュマナは自分の敗北を感じ、それでも力を振り絞って放った矢がクシャに命中し、クシャはその場に崩れ落ちました。
慌てたラヴァは自分の弓矢を投げ出して、クシャを抱きかかえるとクシャはあっという間に回復し、何事もなかったかのように立ち上がりました。

「やっと戦士らしい人が現れたようだね」

 ラクシュマナはかつてランカ島で悪魔と戦ったときに用いた強力な矢を使いましたが、それでも二人のところへ届くことなく、次々と空中で落とされてしまいました。
終にラヴァは聖仙ヴァールミキの呪いのかかった矢を用いました。
この矢を受けて無事でいられるものは三界に存在せづ、ラクシュマナもこの矢に倒れ、意識を失ってしまいました。
 
 ラクシュマナが倒れるのを目にした兵士達は、アヨーディアへと逃げ帰り、ラーマにラクシュマナの敗北を知らせたのでした。

2009/03/12

ラーマヤナ(27)・都にて・其の三

都にて・其の三

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<白馬の儀式>

 其の頃都では、ラーマがコーサラ国の一層の繁栄を願って、白馬を使った特別な儀式を行う事を決心して、聖仙ヴァシシュタに相談して準備を整えると、インド中の王様をその儀式へと招きました。
知らせを受けて、猿王スグリーヴァやミティラー国王は勿論の事、大勢の王様とその家臣が都アヨーディアへとやって来ました。
又、徳の高い僧侶も沢山集まり儀式に参加しました。

 まずは聖なる火を起こし、僧侶の読経が始まり、次に、この儀式で最も大切な、美しく立派な白馬が連れられてきました。
読経が終わると、白馬の首にラーマの宣言を書き付けたものが掛けられました。
その内容はこのようなものでした。

「コーサラ国王ラーマは、全ての国王の中の王である事を宣言する。これを認めない者はこの白馬を捕らえて戦闘に備えよ。これを認めるものは、毎年コーサラ国王ラーマへ捧げ物を持参せよ」
 
 ラーマはシャトルグナに自らの無敵の矢を与え、白馬が各地を駆け巡る間の見張りを申しつけました。
白馬が城を出発すると、シャトルグナは大勢の兵士を率いてその後を追いました。
最初に白馬の道行を遮ったのは、強力な悪魔の王、ラヴァナシュラでしたが、シャトルグナはあっという間にラヴァナシュラの軍を打ち負かしてしまい、ラヴァナシュラの敗北は周辺に知れ渡り、その後は誰も白馬を捕らえるものはありませんでした。

 白馬とシャトルグナの兵士は、次々と近隣の国王の領地を駆け抜け、やがて森の奥深く迄にもやって来ました。
そう、そこはまさに双子のクシャとラヴァが暮らす森で、双子はその白馬を見つけると、すっかり気に入ってしまいました。

「ねえクシャ! あの馬をご覧よ。なんて立派な馬なんだろう。捕まえて乗り回そうじゃないか」
「うん、そうしよう!」

 クシャとラヴァは白馬を捕まえると、そばにあった木につなぎました。
そのとき首に掛かった宣言に目が留まりましたが、それを読むと二人は涙を流して笑い転げました。
まもなく白馬の後を追う兵士達がやって来て、白馬が捕まえられているのを見ると、たいそう驚き、憤りましたが、子どもの仕業と知って、穏やかに注意しました。

「坊や達。この馬は君達のものではないよ。さあ、良い子だからこちらに返してくれるかな」

 ところがクシャは兵士に言い返しました。

「どうして? あの宣言なら読んだよ。返してほしかったら僕らと戦って取り戻すんでしょ?その勇気がないのなら、王さまのところに逃げ帰ればいいさ」

 兵士は怒りをこらえて二人を諭しました。

「君たちはまだ子供じゃないか。子供相手に戦う事はできないよ。さあ、馬を放しなさい」
「おや、恥ずかしくないのかな。そんなことは戦士が言う言葉じゃないよ」

 クシャはさらに言い返しました。
いっこうに言うことを聞かない子供達に腹を立て、ついに兵士たちは武器を手にしました。
するとラヴァは矢を放ち、次々と兵士を倒していき、これに恐れをなした兵士はシャトルグナのもとへ走りました。

「シャトルグナさま! 森の少年が白馬を捕まえてしまったのです。しかもこの少年達は弓矢で多くの者を倒しました。私達はこれを知らせる為に、命からがら逃げてきたのです」
「急いでそこへ案内せよ。この目でその少年達を確かめよう。どれ程勇ましい子供達なのか、見てみようではないか」

 そう答えると、シャトルグナは白馬が捕らえられた場所へと向かいました。

2009/03/11

ラーマヤナ(26)・都にて・其の二

都にて・其の二

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<聖仙ヴァールミキの庵>

 森の奥深く迄辿り着いた所で、ラクシュマナは馬車を止めると、鬱蒼と木々が生い茂る不気味な様子に脅えながらシータが尋ねました。

「ラクシュマナ、この辺りには誰も住んで居ないし、恐ろしい獣がうろついています。なぜこの様な所へ私を連れてきたのですか?」
「お姉様。此れは兄上ラーマの命令なのです。私は貴女をここに置き去りにするよう、申しつけられました」

 余りに信じがたい言葉を耳にしたシータは、その場で気を失ってしまい、慌ててラクシュマナがシータを支えようとすると、どこからか厳かな声が響いてきました。

「ラクシュマナ! シータをそのままにして都へ戻りなさい。心配はいらない」

 これを聞くと、ラクシュマナは急いでその場を離れ、都へと馬車を走らせました。
 シータが目を覚ました時には、もうラクシュマナの姿は在りませんでした。
シータは悲しみにくれ、ぽろぽろと涙を流してすすり泣きました。
ちょうど其の時、聖仙ヴァールミキがそこを通りかかり、ひどく泣いているシータを見つけ、そばに近づいて語りかけました。

「いったいどうなさった?貴女は何者。なぜこんなところで一人で泣いている?」
「私はシータ、ミティラー国、王女にしてコーサラ国、王ラーマ妃です」

 そしてシータは突然この森に連れてこられた事を話しました。

「ヴァールミキ様。私も、一体なぜこの様に突然城を追い出されてしまったのか、全く判らないのです」
「貴女のお父上、ミティラー国王は嘗て私の元で学んでいた。心配は入らない。私の庵で、貴女の夫が迎えに来るのを待つのが良い」

 こうしてシータは聖仙ヴァールミキの庵で質素ながらも信仰に満ちた暮らしを始めました。

 やがて時は過ぎ、シータは双子の男の子を産み落としました。
双子は聖仙ヴァールミキによって、クシャとラヴァと名づけられ、双子は聖仙の庵ですくすくと成長し、やがて聖仙の教育を受け始めました。
聖仙ヴァールミキはシータの物語を歌にして双子に聞かせ、すっかりそれを暗記させました。
シータはお城を追放されてからというもの、自らの名前を明かしていなかったので、双子はその歌が当に自分達の父と母の物語だとは、露ほどにも知りませんでした。

 また聖仙ヴァールミキは、学問だけではなく、武器の使い方も双子に伝授し、二人とも驚くほど上手な弓使いとなったので、聖仙は喜ばしく思うのと同時に、やがてこの弓矢を使わねばならない時のことを思い、憂えていました。

2009/03/10

ラーマヤナ(25)・都にて・其の一

都にて・其の一

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<ラーマの決心>

 偉大なラーマ王の治世の基、人々は皆協力し合い、誰一人として傷つけ合う者等無く、幸せに暮らしておりました。
貧困や飢えに苦しむ事も無く、動物すらも争う事無く、植物もたわわに花実を実らせていました。
ラーマは毎日沐浴をし、聖仙の教えを受け、兄弟と仲良く暮らしていました。
また町の人々の声に耳を傾けることも忘れませんでした。
もし少しでも困っている人が有れば、直ぐに手助けをする為です。

 そんなある日のこと、家臣の一人が沈痛な面持ちでラーマの前に現れました。
何時もの様にラーマの足元に深々と礼拝すると、しばらく口を開かずに立っていました。

「何事があったのか。何か問題があるならば、包み隠さず話しなさい。どんな悪い話であっても、私は聞き入れるぞ」
「ああ、王様! 洗濯屋の主人が、お妃様に対して酷く失礼な事を申していたのです」

 家臣は声を震わせながら話し始めました。

「何時もの様に見回りをしていた時の事、洗濯屋の家から争いあう声が聞こえてきました。何事かと思って近寄り、その内容を聞いてしまいました。ある不心得な者によって洗濯屋の妻が連れ出され、妻はその翌日、家へ戻ったのです。主人は激しく怒り、このように妻を罵りました。『このあばずれめ! おれは何か月もラーヴァナの基で過ごしたシータ様を受け入れたラーマ様程、心が広くはないぞ! 今すぐにこの家を出て行け!』」
「それから? その主人はどうした?」
「主人は決して妻を許さず、家から追い出してしまったのです」

 そう話すと、家臣は黙って俯いてしまいました。
ラーマは王座を降り、自室へと戻りました。
洗濯屋の言葉がするどく胸に突き刺さり、ラーマはひどく悩みましたが、冷静な気持ちでこの事を考え、自らに言い聞かせました。

「この国が正しく秩序を持って栄えるためには、私はシータ離れなければならない」

 一晩中眠る事の出来なかったラーマは、翌朝3人の兄弟の前で告げました。

「ラクシュマナよ。シータを森へ連れて行け」
「どういうことですか、兄上?」
「神のご意思に他ならない。私の命令を聞けないのか」

 突然の言葉に驚いたバラタが尋ねました。

「一体どういう事ですか? 魚が水無くして生きられない様に、兄上もシータどの無しには生きられないではないのですか」
「その通りだ、バラタ。しかし、私は息子であり兄であり夫である前に、王なのだ。国民の信頼を裏切ることはできないのだよ」

 そうして、昨日の事を兄弟達に告げました。

「その様な言葉を吐くものは地獄へ落ちるが良い!」

 ラクシュマナは大層腹を立てましたが、ラーマの決心は変わりませんでした。

「さあ、どうか私の命令を実行おくれ」
「畏まりました、兄上」

 ラクシュマナはシータを馬車に乗せ、森へと向かいました。

2009/03/09

ラーマヤナ(24)・戦闘・其の六

戦闘・其の六

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<シータ>

 言われるままにラクシュマナが薪を用意すると、シータは手を合わせて神様に祈りを奉げました。

「神よ。総ては貴方がご存知です。どうか私の無実を証明してください」

 そう言うとシータは燃えさかる炎の中に飛び込み、これを見た人々は驚きで悲鳴を上げましたが、ラーマ顔色一つ変えることなく、シータの姿を見守っていました。
すると、炎の中から火の神が現れ、ラーマに語りかけました。

「ラーマよ。貴方の妻は純潔そのもの。心は清らかで、その行いにも汚れ一つ無い。さあ、迷うことなくシータを迎え入れよ」

 ラーマはシータに歩み寄り、優しく声をかけました。

「ああ、愛しい人! どうか私を許して欲しい。貴女の純潔を疑ったことは、露程も無い。しかし、他の誰かが疑いを持つのではないかと心配だったのだ。もちろん、何者のよこしまな眼差しも、貴女を汚す事等できるはずがない」

 二人は手を取り合い、人々もその姿を見て喜びました。
 さて、ラーマが都を追放されてから、既に14年の月日が過ぎていました。
ラーマとその一行は、ラーヴァナの天の馬車に乗り、懐かしき都、アヨーディアへと戻る事にしました。
ラーマの帰還を知り、バラタとシャトルグナは勿論、アヨーディアの人々は大いに喜びました。
ラーマの到着後、宮殿では臣下が集まり、その席でラーマが国王として即位する事が決まりました。そして一国も早く即位式を、との声に従い、すぐさま即位式が執り行われました。

「ラーマ様、万歳! シータ様、万歳!」
 総ての人々が声を上げてラーマとシータを称えました。
 国王ラーマはアヨーディア迄行動を共にした、猿族の兵士達に語りかけました。

「貴方方は大いに私を助けてくれた。家族と離れ、私の為に尽くしてくれた事、心から感謝する。さあ、どうか早く家族の元へと戻って欲しい」

 ラーマの温かい感謝の言葉に、皆心を打たれ、言葉もありませんでしたが、更にラーマは彼等に沢山の褒美を与え、故郷へと戻る姿を見送ったのです。
こうして猿族の兵士達が喜びいさんで国へ戻ろうとしている時、ハヌマーンは猿王スグリーヴァに手を合わせて願い出ました。

「王様! どうかこのままラーマ様の基でお仕えする事をお許し下さいませんか」
「確かにお前は誰よりもラーマ王を崇敬しているようだ。しかし、その心にまったく嘘偽りが無い事を証明してみせることはできるのか?」

 スグリーヴァに問われたハヌマーンは、ラーマとシータのことを思いながら、自らの爪でその胸を引き裂くと、なんとそこにはラーマとシータの姿があるではありませんか。
その場にいたものは、みな息を呑み、ハヌマーンの忠誠心を称えました。

「お前の気高い忠誠心は良く分かった。もう私の臣下ではない。望むままにラーマ王に仕えるがよいだろう」

2009/03/08

ラーマヤナ(23)・戦闘・其の五

戦闘・其の五

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<ラーヴァナの死>

 ラクシュマナの回復を知ったラーヴァナは、自らを無敵にする為の呪術を執り行なうと、それに気づいたハヌマーンは、激しくラーヴァナを罵りました。

「この臆病ものめ! 戦いから逃げ出して聖者のまねごとか!」

 侮辱されたラーヴァナは呪術を取り止め、戦の場へと戻らざるを得ませんでした。
 いよいよラーマとラーヴァナが対面した時、ラーマは燃え盛る矢をラーヴァナの体目掛けて放つと、矢は吸い込まれる様に、ラーヴァナ目掛けて飛び、魔王はどさりと大きな音をたてて地面に倒れ、その命を失ったのでした。
ラーヴァナの心善き弟、ヴィビーシャナはラーヴァナの亡骸をランカ島へと運び、葬儀を行いました。

 さて、ラーマ達一行は、ラーヴァナを倒した翌日、ランカ島へと向かい、ヴィビーシャナの即位式に参列しました。
ラクシュマナがヴィビーシャナに王冠をかぶせ、無事に即位式は終了しました。

 即位式が終わると、ラーマはハヌマーン達に、シータを連れてくるよう、命じ、彼はシータを丁重に案内し、ラーマに告げました。

「ラーマ様、シータ様は貴方様の勝利を知って、大層お喜びですが、お疲れでもあります。どうぞおやさしくお迎えください」

 ラーマは目に涙を浮かべ、シータへと歩み寄り、シータも驚きと愛しさに溢れた目でラーマを見つめています。
ラーマはシータに語りかけました。

「シータよ。私は戦いに勝ち、貴方を救い出しました。しかし、他の家で長い時間を過ごした妻を再び受け入れるという不名誉を犯すことはできません。ここで再び、私達は別れる他ありません」

 シータはラーマの言葉にひどく驚き、涙を流しながら答えました。

「たしかに私はラーヴァナに捕らえられていました。けれども貴方以外の人の事等、考えた事もありません。夫たる人に疑われてしまったら、私は一体どうやって生きていけばよいのでしょう」

 シータはラクシュマナへ言いました。

「私達が守るべき伝統に従いましょう。ラクシュマナ、ここで火をおこし、薪を準備してください」

2009/03/07

ラーマヤナ(22)・戦闘・其の四

戦闘・其の四

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<山を運ぶハヌマーン>

 息子メガナンダの死を知ったラーヴァナの怒りは頂点に達し、激しく戦車を駆り立てて戦場へ向かったラーヴァナは、弟ヴィビーシャナがラーマの隣りにいることに気づくとさらに怒り狂い、ヴィビーシャナに向かって矢を射掛けると、ラクシュマナの矢によって、その矢は真っ二つに裂かれてしまいました。これを見て益々怒り狂ったラーヴァナは、雨あられと激しく矢を放ち、之には猿族の兵士も恐れをなし、逃げ出しそうになる者もありました。

 そこでハヌマーンは棍棒を手にしてラーヴァナに立ち向かい、ラーヴァナの矢ではハヌマーンの体を傷つけることはできません。
ハヌマーンは次々と悪魔を打ち倒し、両方の軍団から大量の矢が飛び交い、戦いは激しさを増すばかりです。

 ラクシュマナとヴィビーシャナは、ラーヴァナの戦車に矢を集め、やがて戦車は壊れ、馬と御者も倒れると、之を見たラーヴァナは大声で叫びました。

「よくもやってくれたな、ラクシュマナめ! この私の無敵の武器がお前をあの世にやってくれるわ!」

 ラーヴァナが放った強力な飛び道具は、なんとラクシュマナの胸に突き刺さり、ラクシュマナは意識を失ってその場に倒れてしまいました。
急いでラーマはその飛び道具をラクシュマナの胸から抜き取ると、ラーヴァナの前に立ちはだかりました。

「おのれラーヴァナ! 生かしておくものか!」

 激しく怒ったラーマは容赦なくラーヴァナに向かって矢を放つとラーマの矢は鋭くラーヴァナの体を切り裂いたので、さすがのラーヴァナも耐え切れなくなり、その場を逃げ出しました。
ラーヴァナが退却したのを見ると、ラーマは急いでラクシュマナの元へ駆け寄りました。
ラクシュマナはひどく血を流して意識を失っています。
ラーマは猿族のお医者様に助けを求めました。

「どうか、私の弟をお助けください!」
「ラーマ様、ご心配は無用です。ハヌマーンをマホーダヤ山へお遣わせなさい。その南の山頂に万能の薬草が生えています。それでラクシュマナさまは必ず癒されます。ただし、日の出前に手に入れなければなりません」

 これを聞いたハヌマーンは、早速マホーダヤ山へと飛び立ちました。
大空をどんどんと飛び、やっとのことでマホーダヤ山へたどり着いたハヌマーンでしたが、さて、肝心の薬草を見分けることができませんでした。
仕方なく、ハヌマーンはマホーダヤ山全てをその巨大な腕で持ち上げ、ラクシュマナのもとへ帰ることにしました。

 一晩中空を飛び続けたハヌマーンは、日の出前に戻ってくることができました。
猿族のお医者様は急いで薬草を摘み取り、ラクシュマナに飲ませるとあっという間にラクシュマナの傷が治り、意識を取り戻しました。

「ああ、ラクシュマナ! ハヌマーンのおかげで一命を取り留めたのだよ。無事でよかった」

 ラーマは勿論の事、猿族の兵士達もラクシュマナの回復を心から喜び合いました。

2009/03/06

ラーマヤナ(21)・戦闘・其の三

戦闘・其の三

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<偽のシータ>

 戦いは益々激しさを増し、悪魔達が劣勢になってきたのを見て、ラーヴァナは自ら戦場へ赴きました。
ラーヴァナの姿を目にするや、ラーマは激しく矢を射かけ、たちまちラーヴァナの戦車は壊れ、御者は地面に転げ落ち、ラーヴァナの弓も役に立たなくなりました。
その様子を見たラーマは、誇り高い戦士らしく、ラーヴァナに告げました。

「ラーヴァナよ。私は武器を持たないものを攻撃することはしない。さあ、新しい武器を持ってもう一度やって来るがいい」

 これを聞いたラーヴァナは返す言葉もなく、城へと引き返し、初めての戦いで無残な目にあったラーヴァナは、城内で集を頼んで。

「敵はなかなか手ごわい・・・。今こそクンバカラナの力が必要だ。さあ、行ってあいつを目覚めさせよ!」

 クンバカラナはラーヴァナの弟で、山のように大きな体をしたクンバカラナは、一年の半分を眠って過ごします。
今もぐっすりと眠りこけていますが、なんとか起こさなければなりません。
悪魔達は太鼓を鳴らしたり、ラッパを吹いたり、クンバカラナの耳元で大騒ぎをしてみせますが、なかなか目覚めません。
そこで数匹の象を使い、その鼻でクンバカラナの体を無理やり持ち上げると、ようやく目を覚ましました。
 
 クンバカラナはラーヴァナの命によって戦場に赴き、その大きな体で次々と猿族の兵士をなぎ倒し、ラーマに近づきますが、ラーマは恐れることなく矢を放ち、クンバカラナの両腕を奪い、終にクンバカラナの首を討ち取りました。
クンバカラナの首は、勢いよく空を飛び、ラーヴァナの目の前で地面にどさっと落ち、弟の死を目にしたラーヴァナはいよいよ怒りを増しました。

 クンバカラナの死により、悪魔達の士気が落ちてきたのを見ると、ラーヴァナの息子メガナンダは、戦車にシータを乗せ、戦場へと進むと、シータの姿を目にして、猿族の兵士達は驚きの声を上げました。
メガナンダは剣を抜いて叫びます。

「よく聞け! それ以上一歩でも近づく者が有れば、すぐさまシータの首を刎ねてやる!」

 猿族の兵士達は戦いの手を止め、全員急いでラーマの元へと戻り、敵が戦場から居なくなったのを確かめると、メガナンンダはその場で呪術を執り行い始めました。
メガナンダは、自らを無敵にする魔術を持っていたのです。

 メガナンダの話を聞いたラーマは、気を失うほど驚き、動揺しましたが、ラーマの元に身を寄せていたラーヴァナの心善き弟、ヴィビーシャナが言いました。

「ラーマ様。ご安心下さい。メガナンダが連れているのは偽のシータ様です。メガナンダは魔術を操る力を持っているのです。これは、呪詛を行う為の時間稼ぎに違いありません。さあ、急いで、あいつが呪詛を終える前に戦いを挑んで下さい」

 ヴィビーシャナの話に安心したラーマは、ラクシュマナをメガナンダの処へ送りました。
メガナンダは呪詛の最中で、ラクシュマナに戦いを挑んだもの、ラクシュマナに打ち勝つことはできません。
メガナンダの敗北を目にした猿族の兵士達は、歓喜の声を上げました。

「ラーマ様万歳! ラクシュマナ様万歳!」

2009/03/05

ラーマヤナ(20)・戦闘・其の二

戦闘・其の二

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<偽の打ち首>

 ラーマ達の進軍を知り焦ったラーヴァナは、幽閉中のシータの心を乱して我がものにする事を考えました。
魔術によりラーマの打ち首を作り出し、シータの目の前に投げ出してみせたのです。

「これを見るがいい! ラーマの命は昨夜、我々がいただいたのだ」

  魔術とは知らず、すっかり動揺したシータは地面に崩れ落ちてぼろぼろと涙を流して泣きました。ラーヴァナがその様子に満足してその場を去った処、召使いの一人がそっとシータに近寄って耳打ちをしました。

「シータ様、どうぞご安心ください。あれは魔術により作り出された紛い物。ラーマ様は間違いなく生きておいでです。勿論ラクシュマナ様もご一緒です」

 驚いたシータは顔を上げてその召使いの顔をしげしげと見ました。
悪魔のなかにありながらも、このように清い心を持つ女性も、なかには存在したのです。

 ラーマと兵士達は愈々ラーヴァナの城へと迫ってきました。
ラーヴァナは城の頂上へ登り、その様子を覗いました。
そのラーヴァナの姿を目にした猿王スグリーヴァは、怒りに我を忘れ、単身であっという間に城壁をよじ登り、ラーヴァナに襲いかかりました。
スグリーヴァはラーヴァナの冠を奪い、投げ捨てると、再びラーマの基へ戻りました。
ラーマとスグリーヴァは相談のうえ、四軍に分かれて城を攻撃することにしました。
一方、ラーヴァナも自分の兵を集めると、こう告げました。

「見るがいい。あの猿どもは神が我らに与えた食料にすぎないのだ。お前達、好きなだけむさぼり食ってしまえ!」

 悪魔の兵士達は、ラーマの軍に攻めかかりましたが、ラーマとラクシュマナの放つ矢に倒れていきました。
運よく矢を逃れたものの戦う気力をなくして戦場から逃げ出す者も出てきました。
この様子を見たラーヴァナの息子、メガナンダは、魔術によって自分の姿を透明に変え、ラーマとラクシュマナに矢を放ちました。
放たれた矢は、なんと毒蛇に姿を変えて、ラーマとラクシュマナに咬みついたので、二人とも地面に倒れてしまいました。
ラーマが痛みをこらえながら神に祈ると、ヴィシュヌ神の乗り物である怪鳥ガルーダが現れました。
ガルーダは蛇の天敵です。
ガルーダはメガナンダが放った毒蛇をたいらげると、ラーマとラクシュマナの傷を癒し、空へと消えていきました。

2009/03/04

ラーマヤナ(19)・戦闘・其の一

戦闘・其の一

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<ランカ島への橋>
 ランカ島に大火を放ったハヌマーンは、一先ずラーマの元へ戻り、シータの無事を報告しました。

「ラーマ様! シータ様はランカ島に囚われておいでですが、誇り高く、悪魔どもを近づける事無くお過ごしです。さあ、今こそ貴方様ご自身の手で、魔王ラーヴァナを倒すときです」

 ラーマは大層喜んでハヌマーンを抱きしめ、すぐさまスグリーヴァの協力で猿族の兵士を大勢集めると、南の海岸へと向けて出発しました。
ラーマと兵士達は、ランカ島の対岸へと辿り着きましたが、ランカ島へ渡るには、大海を越えなければなりません。
空を飛ぶ事が出来るのはハヌマーンだけです。
そこでラーマは海神に祈りを捧げる事にしました。

「海神さま! 我らにご加護を! どうかこの海を渡らせてください」

 ところがいっこうに海神が姿を現す気配はありません。ラーマは三日三晩祈りつづけましたが、ついに癇癪を起こしてしまいました。

「どうやら私の祈りでは不十分なようだ。傲慢な神よ! それならばこの手で海の生き物をすべて殺し、死骸で海面を覆ってやろう!」

 ラーマがそう言って弓に矢をつがえると、大地が揺れ始め、更に空には暗雲が立ち込め、海は激しく波立ち、風が吹き荒れ、稲光が走り、地上の木々は竜巻に引き抜かれて空へ舞い上がりました。
この様子に驚いた海神は、ついに海上に姿を現しました。

「ラーマよ、落ち着きなさい。貴方の兵士達に橋を架けさせるが良い。それで全て上手く善くでしょう」

 そう言うと、海神は再び海中に戻りました。
海神の言葉に従って、ラーマの兵達は、岸辺の石を使って橋を作り始めました。
彼等が運んだ石は、海に沈むことなく浮かび、しっかりと頑丈な橋となりました。
一行は意気揚々と橋を渡り始めると、彼等の行軍は海を震わせ、その轟音はラーヴァナの耳にも届きました。

2009/03/03

ラーマヤナ(18)・麗しの物語・其の二

麗しの物語・其の二

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<ハヌマーンのしっぽ>

 騒ぎを聞きつけた番兵達が駆けつけ、ハヌマーンを捕らえるべく次々と襲いかかりましたが、ハヌマーンは庭木を引き抜いては投げつけ、獅子奮迅の戦いを繰り広げました。
ハヌマーンはたった一人で数多くの悪魔を倒しましたが、ラーヴァナの息子、メガナンダの操る呪術によって、ついに捕らえられてしまいました。
しかし、実はこれは魔王ラーヴァナと対決する為に、わざと術に落ちたふりをしていただけなのでした。
王子は縛り上げたハヌマーンを従えて、鼻高々と父王の待つ宮殿へと戻りました。

「命知らずの猿め! お前はいったい何者だ?」
「私は猿王スグリーヴァの使者です。ランカの王ラーヴァナ殿、貴方の栄華は終わり、罪の報いを受ける時が遣って来ました。シータ様を解放し、ラーマ様に非礼の許しを乞うのです。」

 これを聞いてすっかり腹を立てたラーヴァナは、ハヌマーンを殺してしまうよう命じました。
しかし、ラーヴァナの弟、ただ一人善き心を持つヴィビーシャナが、使者を殺すのは慣例に反すると諌めた為、別の命令を出しました。

「よかろう、命だけは助けてやるが、体の一部を切り取ってしまえ。そう、その獣の尾に火をつけて、燃やしてやるがいい」

 命令に従って、兵士たちはぼろきれに油を注ぎ、ハヌマーンの長いしっぽの先にくくりつけました。
ハヌマーンは黙ってされるがままになっています。
そしてついに火がつけられると、ぼっと大きな炎が上がりました。

「いい気味だ。尾のない猿が戻ってきたら、お前の主はどう出てくるかな」

 ラーヴァナをはじめ、悪魔達はハヌマーンのしっぽがめらめらと燃えるのを見て、手をたたいて喜びました。
更にハヌマーンを縛ったまま外に連れ出し、ランカの城下町を引き回す事にしました。
噂をきいて、おおぜいの悪魔が見物に押し寄せ、しっぽに火をつけられたハヌマーンを見て、みな笑い、罵声を浴びせました。

 引き回しの行列が町の端まで来た所で、ハヌマーンは自分の体を少し小さくし、するりと縄を抜けました。
悪魔があっけにとられていると、突然強風が吹き、ハヌマーンは風に乗って跳び上がりました。
今度は体を巨大に変身させると、大きな笑い声を上げながら家の屋根から屋根へと跳び回りました。ハヌマーンのしっぽの火は消えておらず、屋根についた火がどんどん広がり、城下町は忽、大火事にみまわれました。
ランカの悪魔達は逃げまどい、ラーヴァナの宮殿へと傾れ込みました。

「ラーヴァナ様! お助けを! 私達の財産はすべて灰になってしまいました…!」

 ラーヴァナはこの様子を見て、なす術もなく呆然と立ちつくし、町だけではなく、宮殿にも火の手が迫り、島じゅうが炎に包まれています。
生き残った悪魔達の間で、噂が囁かれ始めました。

「総ては王様のせいだ…人の妻をさらうという大罪を犯したからだ…ラーマ様の信奉者であるヴィビーシャナ様の邸だけが火を逃れたらしい…」

2009/03/02

ラーマヤナ(17)・麗しの物語・其の一

麗しの物語・其の一

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<囚われのシータ>

シータが幽閉されているランカ島迄は大変な距離が在りましたが、ハヌマーンは休む事なく空を飛び続けました。
やっとの事で辿り着いたランカ島の町は、四方を高い塀で囲まれ、巨大な体の悪魔が門番をしていました。
そこでハヌマーンは、夜に成るのを待って町へ忍び込む事にしました。
闇に紛れて塀を乗り越えて町へ入り、ラーヴァナの城へたどり着いたハヌマーンは、城の庭の木によじ登って、そこで夜を過ごしました。
明け方、木の上からそっとあたりを見回すと、数人の悪魔に囲まれて、一人の人間の女性の姿がありました。
その悲しみに打ちひしがれた様子は、シータに間違いありません。

「シータ! ランカの王、ラーヴァナさまのお妃にむかえられるとは、なんたる幸せ者。さあ、もうすぐラーヴァナさまがやってくる。早く着替えてお迎えなさい」

 悪魔が口々にシータへ詰め寄っている処へ、ラーヴァナがやって来ました。
悪魔達が一礼してその場を去ると、ラーヴァナはシータに話しかけました。

「いつまでラーマの事を考えているのだ! 富も、力も、勇気も持ち合わせていない奴の事を! つべこべ言わずに私の妃となるがいい!」

 シータはラーヴァナから身を引き、毅然として言葉を返しました。

「太陽と光が常にともにあるように、誰も私を夫から引き離すことはできません。早く私を解放して、ラーマに謝りなさい。彼はきっと広い心で許してくれるでしょう」
「何を生意気な! 良いか、今から二ヵ月後に私と結婚するのだ。従わなければ、お前を八つ裂きにして食ってやる!」

 ラーヴァナの脅し文句にも、シータは怯む事が有りませんでした。

「おろか者! 恥を知るが良い。卑怯な手で私をさらった臆病者!」

 シータの強烈な罵りにラーヴァナは言葉を失い、それ以上は言い返すことなくその場を去って行きました。
シータが一人になったのを見ると、ハヌマーンはシータの前に姿を現しました。

「シータ様。やっとお会いすることが出来ました。光栄の限りです」
「貴方は誰?」

 驚くシータに、ハヌマーンは今迄の事を話し、ラーマから預かった指輪を取り出して見せました。
ハヌマーンからラーマとラクシュマナの無事をきくと、シータはほっとして、ハヌマーンを祝福しました。

「ありがとう。あなたに不老不死の吉祥が与えられますように」
「シータ様、これでもう安心です。貴女の居場所が判ったからには、我らの兵士が悪魔どもを退治させて、貴女様をお救致します。・・・ああ、ところで、私はすっかりお腹が空いてしまいました。ちょっと果物を頂きますね」

 そう言うと、ハヌマーンは庭の果物を次々とちぎってはむしゃむしゃ食べ、しまいには庭の木を根っこから引き抜き始めてしまいました。

「気をつけなさい。番兵達が聞きつけますよ」

 シータの注意にも関わらず、ハヌマーンはすっかり庭を荒らしてしまい、番兵達に見つかってしまったのでした。

2009/03/01

ラーマヤナ(16)・猿族の王国・其の二

猿族の王国・其の二

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<王座奪還>

 ラーマの協力を得て、猿王スグリーヴァは彼等の都、キシュキンダーへと向かいました。
そこでスグリーヴァは兄王ヴァーリンに一対一の決闘を申し込んだのです。
スグリーヴァは激しく打ちのめされされましたが、ラーマの約束を信じていましたので、決して諦めることはありませんでした。

 しかしラーマは木陰で様子を見守るばかりで、なかなか手助けをしてはくれません。
ひとしきり戦ったところで、スグリーヴァはラーマに訴えました。

「王子よ! あなたはなぜ見ているばかりで助けてはくれないのか」
「すまない、スグリーヴァよ。貴方方兄弟はよく似ているので、見分けがつかないのだ」

 そこでラーマはスグリーヴァに花輪を与え、二人を見分けることができるようにしました。
戦いが再開されましたが、やはりスグリーヴァが劣勢です。
そこでラーマはヴァーリンに狙いを定めて弓をひき、次の瞬間、胸に矢を受けたヴァーリンはどさっと地に倒れました。
 ラーマはヴァーリンに駆け寄り、その頭を自らの膝にかかえました。

「貴方は・・・何者か? 如何なる云われで私を殺すのか・・・?」

 そう言うと、ヴァーリンは息を引き取りました。

 ヴァーリンの死により、スグリーヴァは奪われた王座と妻を取り返しました。
ところが喜びに浮かれるスグリーヴァは、ラーマとの約束をすっかり忘れてしまいました。
そこでハヌマーンはスグリーヴァに申し出ました。

「スグリーヴァ様! ラーマ様とのお約束をお忘れですか? 今こそシータ妃探しの手助けをするときではありませんか」

 スグリーヴァは、はっと我に返りました。

「よく言ってくれた、ハヌマーンよ。喜びに目がくらみ、約束を破るところだった。さあ、すぐに我らの兵を遣わそう!」

 王の命令を受けて、ハヌマーンは屈強な猿族の兵士を募り、南へと探索に向かう事になりました。彼らの出発の前に、ラーマは自分の指輪をハヌマーンに与えました。

「これをお持ちなさい。きっとお前がシータを探し当ててくれるだろうから、其の時はこの指輪をシータに見せておくれ。そうすれば間違いなく私の使いだということがわかるから」

 指輪を受け取ったハヌマーンは、兵士を率いて都を出発しました。

 一行は困難な道のりにもひるまず、密林を通り抜け、南へ南へと進みました。
そんなある日、彼らは禿鷹ジャターユの兄弟、サンパーティに出会いました。

「シータ妃をお探しか? 魔王ラーヴァナが、彼等が島、ランカへと連れ去るのを見た」

 これを聞いて一行は南の海岸へと向かいました。
しかし、彼等の力では海を越えてランカ島へ渡るのは不可能です。
彼等は海岸で頭を悩ませました。

「いったいどうしたものか・・・。いかにしてこの海を渡ればよいものか・・・」

 其の時、兵士達は口々にハヌマーンに呼びかけました。

「ハヌマーンよ! この海を越えてシータ妃を探し出せるのは、ただ一人、お前だけだ! さあ、今こそお前の力を使うときだ」

 皆の期待を受けて、ハヌマーンは巨大な姿に変身すると、海の向こうのランカ島を目指して目にも留まらぬ速さで飛び立ちました。

2009/03/01

ラーマヤナ(15)・猿族の王国・其の一

猿族の王国・其の一

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<猿王スグリーヴァの友情>

 ラーマとラクシュマナは旅を続け、湖を越え、山へと入りました。
そのとき、突然一人の僧が二人の目の前に現れると、その僧は礼儀正しく二人に話しかけました。

「貴方様方は他所からお越しですね。どちらからいらっしゃたのですか?」
「そういうあなたは? なぜ私達の出自を尋ねるのですか。どんな目的がおありですか」

 警戒した様子のラクシュマナに、僧は答えました。

「此方には高貴なる猿王、スグリーヴァ様がお住まいです。ただいまは兄王ヴァーリン様に王国を追われる身柄です。あなた方はスグリーヴァ様をお探しですか?」
「おお! 当に私達はスグリーヴァ殿を探しているのです。どうかお連れ頂けますか」
「畏まりました。但し、その前に貴方様方の事をよく知らねばなりません」

 そこでラーマとラクシュマナは国を追放された事、シータがさらわれた事などをすっかり話しました。

「処で、貴方様はどういうご身分のお方なのですか?」

 ラクシュマナに問われて僧は両手を合わせて答えました。

「私はスグリーヴァ様の臣下、ハヌマーンと申します。貴方様方がヴァーリン様の手先ではない事を確かめる為に、僧の姿をしておりました」

 するとハヌマーンは、僧の姿から猿の姿に戻りました。

「どうぞ驚かれませぬように。私は自分の体を好きなように変えることができるのです」

 そう言うと、ハヌマーンはラーマとラクシュマナを軽々と肩に乗せることができるほど巨大な体に変身しました。
二人を肩に乗せたハヌマーンは、スグリーヴァの住まいにと向かって空を飛び始めました。
空から見下ろすと、地上には美しい景色が広がっていました。
その風景の至る所には、逞しい体つきの猿族の兵士達が見られました。

 ハヌマーンは二人をスグリーヴァの所へ案内しました。

「スグリーヴァ様、此方はコーサラ国の王子です。お二人は国を追われ、魔王ラーヴァナにさらわれたお妃様をお探しとの事。貴方様の協力を求めておいでです」

 スグリーヴァは二人を心から歓迎しました。

「私は猿族、貴方は人間族。それにも関わらず協力をお申し出いただいた事、たいへん光栄です。必ずやお力になりましょう」

 そしてスグリーヴァは涙ながらに自らの身の上を語り始めました。

「私は我が兄ヴァーリンによって国を追放され、妃も奪われました。其れゆえこの様な処で暮らしているのです。まずは私に貴方のお力を貸しては頂けませんか」

 ラーマとスグリーヴァは、ハヌマーンが熾した聖火に友情を誓いました。

「猿王よ。必ずヴァーリンを倒し、貴方の王座とお妃を奪い返すことを誓います」

 ラーマの言葉に、スグリーヴァは喜びで顔を輝かせました。