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2009/04/30

デメテル・豊穣の大地Ⅲ ペルセポネの略奪Ⅱ

豊穣の大地Ⅲ

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<ペルセポネの略奪Ⅱ>

 太陽神ヘリオスの住む、最果ての地に辿り着いたデメテルとヘカテー。
二人がヘリオスのもとに近づくと、ヘルメスは、二人にゆっくりと話し始めました。

「レイアーの娘のデメテルよ、私は貴女がここを訪れるであろう事は、解っていましたよ。・・・さて、何から話してよいのやら・・・。それでは話しましょう。貴女の娘であるペルセポネは、貴女の兄君にも当たる冥界の王ハデスによって連れ去られてしまったのです。これはゼウス大神も黙認の事、致し方ありますまい・・・。しかし、どうか酷くお嘆きにならないでください。冥界の主は、決して彼女に恥ずかしくないお相手でございます・・・。誉れ高きあなた方のご兄弟であり、また世界の三つ一の王なのですから。」

 ヘリオスは、こう言うと少し決まりの悪そうな素振りで、逃げるように中空高く飛んでいきました。

 一方デメテルは、このヘリオスの慰めも心には届かず、ただ呆然となって立ち尽くすばかり。 
それは次第に怒りへと形を変えていき、ペルセポネの誘拐に関わった者、特にゼウスに対して、激しい恨みを持つようになったのです。
デメテルは、オリンポスにも上がる事もなく、姿を窶して、人間界を彷徨い続けたのでした。

 彼女の負った心の傷は、時が癒す事はありませんでした。
逆に、時が経てば経つほど、あの無情な神々に対する怒りが無限にこみ上げてきます。
彼女の思いは頂点に達し、終には何とかして奴らに思い知らせてやろうと考えるようになりました。

 彼女は恐ろしい復讐に出たのです。
作物の実りを操ることのできるデメテルは、一切の種子の発芽を許しませんでした。
このむなしい思いを皆にも知らせるために、地上に寒波を作り出しました。
それ以来畑では、農作業の甲斐なく、たくさんの麦が無駄にばら撒かれました。
こうして多くの人間が死に行き、オリンポスの神々も、人間からの奉げ物を無くしたのです。

 この事態の急を察したゼウスは、まず虹の女神イーリスをデメテルの元に送り、説得に努めさせましたが、全くの甲斐無く、この後もゼウスの命で様々な神が、あらゆる貢物を持ってデメテルを訪ねますが、彼女はガンともしません。
とうとう根負けしたゼウスは、ヘルメスを冥界に送り、ペルセポネを連れ戻す事をデメテルに約束しました。

 ヘルメスは冥府の王に事の事情を話し、ペルセポネを地上に返すようにハデスにせまりました。
始めは渋っていたハデスですが、ゼウスの命令なら仕方ないと、ペルセポネを地上に戻す約束をしたのです。
ハデスは、ペルセポネに事を話し、早速用意するように言いました。
それを聞いて大喜びするペルセポネにハデスは、「せめてもの冥界の思い出に・・・」と、とても甘そうなザクロの実をペルセポネに与えました。

 ペルセポネは早速地上への道を上がって行き、ついにデメテルの待つ冥府の入り口へと辿り着きました。
久方ぶりの再会を果たした二人は、まるで狂わんばかりに抱擁をし、再会を喜び合いました。

 これにより頑なな、デメテルの心も溶かされ、畑ではいっせいに麦が芽を出しました。
暫く抱合っていたデメテルですが、急に何と無い心配に、胸騒ぎを覚えました。
それで、ペルセポネの顔をしげしげと見つめ、こう言いました。

「ペルセポネよ。あなたはもしかして、冥界で何か食べ物を口にしませんでしたか?答えてください。もし冥界で何かを食べてしまったのなら、冥界の掟としてあなたは冥界にふたたび帰らなければなりません。・・・あぁ、ペルセポネよ。さあ、食べてないといっておくれ。」

 その言葉を聞いたペルセポネの顔からは、さっきまでの笑みは消え、血の気も引いて、まさに冥府の女王の顔のようになっていました。
この顔色を見てそれを察し、ふたたびペルセポネを強く抱きしめました。

 一方、事を無難に済ませようとしたゼウスは、彼らの母であるレイアーをデメテルの許に遣わし、神々の仲間に戻ってくる事を勧めさせ、彼女に望むほどの栄誉を与える事を約束させます。
しかし、それでも余り好い顔をしないデメテルに、ゼウスは、特例としてペルセポネを一年の三分の一を冥界で過ごさなければならないが、残りは地上で暮らせるように計らいました。

 流石にデメテルも諦め、その条件を飲む事にしました。
こうして、ペルセポネは、一年の三分の二を母と共に暮らせるようになりました。
しかし、ペルセポネのいない残りの月は、寂しさのあまりデメテルの心も凍りつきました。

そしてその時期は、草木も生えず、後に”冬”と呼ばれるようになったのです。

続く・・・
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2009/04/29

デメテル・豊穣に大地Ⅱ ペルセポネの略奪

豊穣の大地Ⅱ

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<ペルセポネの略奪>
 デメテルは、ゼウスとの間にペルセポネ(プロセルフィーナ)と呼ばれる、それは愛らしい女神を儲けていました。
デメテルはペルセポネを異常なまでに溺愛しており、彼女が浮気なオリュンポスの神々達の目に付いたら一大事と、半ば隠すようにシチリア島のニンフ達の元に預けていたのでした。

 そんな美しい少女の噂が知られぬ訳もなく、母デメテルの心配もよそに神々達に広く知られるようになりましたが、デメテルの性格を知る殆どの神々は、ペルセポネに手出しするどころではありません。
しかしそんな折、こともあろうにゼウスの弟である、冥界のハデスが彼女に惚れてしまったのです。

 ハデスは早速その事を、ペルセポネの父でもあるゼウスに伝えに行き、結婚の承諾を懇願しましたが、デメテルの態度を知るゼウスは、大変困ってしまいます。
ハデスの頼みを、無下にする訳にもいかず、ゼウスは、ペルセポネの誘拐を黙認するという形をとったのです。

 シチリア島では、辺り一面にクロッカスやヒヤシンスが咲き乱れています。
その美しい花々と見紛うかのような少女ペルセポネが、ニンフたちと共に野に出きました。
一面を美しい花々で 被われたこの野に、更にひときわ目立つ一輪の見事な水仙がありました。
ペルセポネは、そのあまりの美しさに心奪われ、早速手を伸ばしてこれを取ろうとしました。

 その時、突然大地は音を立てて二つに裂かれ、ぱっくりと開いたその口から神馬を御して冥界の王は現れ、少女を掴み挙げると、泣き叫ぶのをよそに黄金の馬車にペルセポネを乗せ、そのまま地の底に潜っていってしまいました。
彼女の甲高い叫びを聞きつけたのは、女神ヘカテーと、太陽神ヘリオスだけでした。

 山々にこだました、彼女の叫びは母デメテルの耳に届きます。
まるで状況のつかめないデメテルは、力なく呟くと狂ったように駆け回って、陸の上、海の上を捜し歩きました。
出会った総ての者に聞いて回りましたが、何の手がかりもなく、探しにやらせた鳥達にも、一羽として知らせを齎す者は無かったのです。
九日の間デメテルは寝食も忘れ、最愛のペルセポネを探し続け、とうとう十日目の朝に女神ヘカテーと出会い、ヘカテーはこう言いました。

「私は姿は見ていないので、はっきりはいえませんが、何者かがあなたの娘をさらって行ったようです。私にはここまでしか解りませんが、その始終は太陽神ヘリオスが承知のはず。今から参ってヘリオスに伺いましょう?」

 この言葉にデメテルは静かにうなずき、二人は太陽神ヘリオスの元へと向かっていきました。

続く・・・

2009/04/28

デメテル・豊穣の大地

豊穣の大地

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<生命を繋ぐ「食」の女神> 

  「母なる大地」という崇高な名を持つデメテルは、祖母ガイア-母レアと受け継がれてきた大地母神の系譜の3代目に当たります。
しかし、不毛の荒野や山岳なども含めた大地全体を司るガイアやレアとは違い、デメテルは作物が実る肥沃な耕地を主に司ります。
つまり権能の幅が前2名よりも狭まった訳ですが、農耕という食糧生産の業に焦点が絞られた分、かえって人間達にとっての重要性は飛躍的に増したといえるでしょう。

  食物、特に小麦という大きな恵みを惜しみなく与えてくれるこの女神を崇めないギリシア人はいません。
又神々も、地上に生きるほぼ総ての生命を支える彼女の力を畏敬し、一目も二目もおいて尊んでいます。
デメテル本人も優しく穏やかな性格なので 殆どの神々とも人間とも親しみをこめて接しますが、唯一、農地を軍靴で踏み荒らすアレスや津波で畑を駄目にするポセイドンとはあまり仲がよくありません。

  彼女の恩恵は余りにも偉大に過ぎる為、万一それを拒まれてしまったときのダメージの程は計り知れないものがあり、デメテルの聖樹をそれと知って伐り倒すという涜神行為を犯したテッサリア王エリュシクトンは、立腹した女神から「いくら食べても永遠に空腹から逃れられない」という恐るべき飢餓の罰を下され、全財産を文字通り食い潰した挙げ句、遂には我と我が身まで噛み裂いて死んでしまいました。
これは一個人に降りかかった神罰の例ですが、不興の矛先が全世界に向いてしまった場合などはもう大変。
何せ神話の語るところでは、地上は一度デメテルの怒りのために滅亡しかけたというのですから。

続く・・・
2009/04/27

アストライア(Ⅳ)

アストライアⅣ

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<女神の出自> 
 アストライアの両親については2つの説があります。
1つは「ゼウスとテミスの娘」説で、一般的によく知られているのはこちらの方です。
そしてもう1つは「アストライオスとエオスの娘」説です。

  前者の説は、おそらく正義の女神という性質からゼウスとテミスの娘であるディケ女神と混同された結果生じたものでしょう。
しかし、アストライアはクロノスの時代から既に存在しているので、ティタノマキア後に結婚したゼウスとテミスの娘としたのでは辻褄が合いません。

  一方後者の説は、おそらくアストライオスと同じ名前(astraia:星のごとく輝く者)を持っていることから考えられたものでしょう。
この説ですと、アストライアはティタン神族の一員ということになりますから、クロノスの時代から地上で仕事をしていても何ら不思議ではありません。
アストライオスは星の神、エオスは暁の女神なので、正義とは何の関係もないところがやや厳しいですが、この場合は正義つながりではなく、あくまでも星つながりで考えた方がいいようです。
乙女座のモデルとされていることからもアストライア自身星の女神の性質を持っていたことは間違いないでしょうし、個人的にはこちらの系譜の方が妥当性が高いと考えますが、いかがなものでしょうか。
2009/04/26

アストライア(Ⅲ)

アストライアⅢ

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<退廃>

 ところがその彼等も又、不敬虔故にゼウスの怒りを買って絶滅させられてしまいました。
そして再度新たな人類が作り出されたのですが、これがアストライアの心を完膚無きまでに絶望で押し拉ぐひどい代物でした。

  「青銅の種族」と呼ばれた彼等は、銀の種族よりも更に精神の荒廃した、残酷で好戦的な者達でした。
彼等は、初めて鍛冶の業を身につけ、生き物の身を切り裂くための剣を作り出しました。
そしてアストライアの存在など忘れ果てたかの様に人間同士で醜い争いを繰り広げ、また罪もない牛を屠殺してその肉を貪り食うということまでやってのけたのです。
それまで牛といえば、ただくびきに繋いで畑を耕させるだけの存在だったのに!

  戦争と肉食――流血を恐れぬ人間達の余りの堕落ぶりを、これ以上見続ける事はできませんでした。
遂に耐えきれなくなったアストライアは顔を背け、それまで頑なに使おうとしなかった翼を大きく広げると、地を蹴って宙に舞い上がりました。
嘗てあれ程、愛した大地が、羽音が1つ響く度に遠ざかっていきます。
怒りと悲しみ、果てしない喪失感、懐旧の情、様々な思いが胸に迫り、やがて渦巻いて1つの像を結びました。 

  こうして地上に残る最後の神であった正義の女神も天に逃げ去り、人間の基から神の恵みは失われたのでした。

  ヘシオドスが言うには、現代は「青銅の時代」よりもさらに劣化した「鉄の時代」だそうですが、そんな世界をアストライアは一体どのように見ていることでしょう(彼女が去ったのはこの鉄の時代のひどすぎる堕落のゆえだとする説もあります)。
いくら思いを馳せてみても、もはや叱責すら受けられない我々には女神の心を推察する術も有りません。
2009/04/25

アストライア(Ⅱ)

アストライアⅡ

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<失われし黄金の蜜月> 

 ティタノマキア勃発以前、クロノスが世界を支配していた時代、地上は、現代から想像もつかないほど平和の輝きに満ちていました。
人間達は争いを知らず、武器を取って他人の領地に攻め入る事も無ければ、海を越えて余所の土地から財物を運んで来る事もありませんでした。
唯、自分達の土地から得られる物を享受するだけの暮らしでも、たわわな実りを与えてくれる大地のおかげで何も不足はなかったのです。
大地の恵みに満足してシンプルに生きる彼らは「黄金の種族」と呼ばれ、彼らの生きた時代は「黄金時代」と呼ばれました。

  神々は、この黄金の種族を愛し、自ら地上に降って親しく彼らの面倒を見ました。
正義の女神アストライアもその1人で、この善意あふれる女神は広場であれ大通りであれ何処に出も出かけていっては積極的に人間と交わり、彼らの間に座を占めて、1人1人と顔を合わせながら優しい言葉で正義を教え聞かせました。

  人間達もそんな彼女を「我らが女王」として深く敬愛し、魂を導くその言葉に熱心に耳を傾けました。
アストライアと人間たちの蜜月――それは神と人とが極めて近い距離にあった黄金時代の象徴ともいうべき光景だったのです。

  しかし、人間の寿命とは限りあるもの。やがて黄金の種族は眠りにつくかのような静けさで死に絶えてしまいました。
又、神の世界でもティタノマキアが起こってクロノスが失脚し、ゼウス政権が誕生しまし、時代が移り変わったのです。

  ゼウスによって新たに作られた人類は、黄金の種族よりも随分と劣ったものでした。
敬神の念に欠け、義務を守ろうとする心が弱く、より貪欲になっていたのです。
彼等は黄金には及ばないという意味で「銀の種族」と呼ばれ、彼らの生きた時代は「銀の時代」と呼ばれることになりました。

  あの善良な愛すべき人々は何処へ行ってしまったのでしょう――アストライアは失望しました。
不死なる者と死すべき者という越えられぬ壁のゆえに、彼女は多くの良き友を失い、ただ1人、劣った者たちの中に取り残されてしまったのです。

  銀の種族の粗悪さに呆れた神々は、続々と彼らを見捨てて天に帰っていきました。
もちろんアストライアにもそうする権利はありましたが、彼女は街を捨てて小高い丘へ引き籠もりはしたものの、地上を去ることはしませんでした。
どうしてもあの人間達と親しんでいた折の美しい思い出、その思い出が紡ぎ出す「もしかしたら努力次第で今度も……」という一縷の望みを胸から消し去ることが出来なかったからです。

  しかし、もはやかつてのように積極的に働きかける気にはなれなかったため、彼女は丘を雲で覆って姿を隠し、彼らの祈りに対してももう顔を見せないことに決めました。
その旨を宣告するために彼女が最後に街を訪れたとき、人々に向けて発した言葉――それは半ば脅迫まじりの悲痛な叱責でした。

「しかと目を開けてご覧なさい、あなた方の輝かしい父祖が一体何という後継ぎを残したことか! あなた方はまったく彼らに及びもつかない。でもあなた方自身はもっとひどい子孫を生むことになるのですよ。このまま堕落し続けるなら、きっと戦争やむごたらしい流血沙汰が人々の間で生じ、ひどい悲しみが彼らの上に降りかかることになるでしょう。それでもいいのですか!?」

  この最後の叱責をもってしても、残念ながら人々の行いを改めさせることは出来ませんでした。しかし、自力で状況を変えることが出来ない心の弱い者たちだったとはいえ、まだ人々は彼女の言葉を耳に入れ、激しい口調で予言された未来像に不安を抱き、女神に見捨てられたという現実に恐れ震えるだけのメンタリティは持ち合わせていたのです。
その分だけ、彼らはまだマシなところのある人々であり、「黄金」には及ばずとも「銀」と称されるだけの輝きを持っていた種族でした。

続く

 
2009/04/24

おとめ座のモデルは誰?

アストライア

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<清純な星の乙女神> 
 
  春の夜空を彩る代表的な星座の1つに乙女座があります。
全天で2番目に大きな星座で、美しく光り輝く麦の穂(一等星スピカ)を左手に握った有翼の女神として描かれます。

  この女神が誰であるのかについては3つの説があります。

まず1つ目は「農耕の女神デメテル」説。
女盛りの母神であるデメテルは乙女ではありませんが、麦を標徴物とする女神です。

2つ目は、デメテルの娘神の「豊饒の女神ペルセポネ」説。
冥王ハデスの妃である彼女も厳密に言えば乙女ではありませんが、何といっても「コレ(ギリシア語で「娘・乙女」の意味)」という別名を持つ女神なので、乙女座のモデルとしては妥当でしょう。

  さて、この2つとは少し毛色の違う3つ目の説として「正義の女神アストライア」説があります。
彼女は清らかな処女神で、人の善悪をはかる天秤を用いて正邪を裁く存在でした。
乙女座の東隣にある天秤座がその天秤だと言われています。

  残念ながら前の2人とは違って麦には縁がありませんが、そのかわり乙女座の背に描かれた大きな翼には浅からぬ繋がりを持っています。
アストライアの翼にまつわる哀しい物語……それはまた、我々人類にとっての大いなる喪失の物語でもあるのです。

続く・・・・
2009/04/23

アテナ

<アテナ>

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  全知全能の神、ゼウスの最愛の子供にして、最も強く、最も人気のある女神。
その守護地アテナイは、嘗てデロス同盟の盟主であり、現在はギリシア共和国の首都。
アクロポリスに聳える彼女の住居パルテノン神殿は、ド-リア式建築の最高傑作と謳われる遺跡です。

  女神アテナは、本当に最高と言う言葉の似合う女神です。
大変に優秀で、しかも完璧な文武両道、槍を振りかざして戦場を駆け巡り、雄叫びひとつで幾千の兵士の心胆を寒からしめる一方で、館にあっては乙女らしい慎ましさで機を織り、織り上げた布に見事な刺繍を施してもみせる。
最高の女神は又、相反する性質を持つ「二面性」の女神でもありました。

  彼女の仕事の第一は、英雄達に加護を垂れ、その仕事を助けてやる事。
知恵と力の源泉である彼女に睨まれては、如何に優れた英雄と云えども志半ばで非業の死を遂げざるを得ませんでした。

  アテナの恵みを受けるのは、何も男達ばかりではありません。
女達にとっての彼女は主婦として家を治める女性が身につけておくべき総ての手業を司る女神でした。
機織りの技を自慢して、こともあろうにその才能の贈り手であるアテナと腕を競い、女神の怒りを買って蜘蛛に変えられた少女アラクネの物語は有名です。


2009/04/22

プレアデス、星達の名前の由来

プレアデス星団、星達の由来

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プレアデス(昴)は、本来、冬の到来を告げる星座で、東の空にチカチカと瞬く姿が見え始めると愈愈、木枯らしの季節になります。
そんな、プレアデスも4月の下旬ともなれば、夕暮れのほんの僅か垣間見る事が、何とかできます。
今回は、そんなプレアデス星団を構成する、主要な星達の名前の由来です。

<マイア>
            
 昴の女神プレイアス達の長女で、7人姉妹の中で最も美しい女神です。
アルカディアのキュレネ山に1人で住んでいた頃、ゼウスの寵愛を受けて伝令神ヘルメスを生みました。
ヘラから妾女と敵視されながらも実害は被らなかった幸運者で、彼女よりずっと不幸だったゼウスの愛人カリストの息子アルカスをヘルメスから預かり、母親代わりとして育て上げました。
5月を表す May(ラテン語ではMaius)は彼女の名にちなんでヘルメスが命名したとも云われています。
             
<エレクトラ>

 サモトラケ島に住んでいた時、ゼウスに愛され、ダルダノス、イアシオン、エマティオンという3人の息子を生みました。
ダルダノスはトロイア王家の祖となり、イアシオンは女神デメテルと交わって富の神プルトスの父となり、エマティオンはサモトラケ島の王となります。
また一説によれば、テバイ王家の祖となった調和の女神ハルモニアを生んだ(普通ハルモニアはアレスとアプロディテの娘とされる)とも言われますが、単に子育てを放棄した実母アプロディテから彼女を預かって養育しただけという説もあります。

 後には姉妹達と供に昇天し星となりましたが、トロイア戦争によってトロイアが壊滅し、息子の血を引いた王家が滅ぼされたのを見ると、悲嘆のあまり彗星となって天から姿を消したと云われます。
            
<タユゲテ>
            
 タユゲトス山脈に住んでい時、ゼウスの寵愛を受け、スパルタ王家の祖にしてラケダイモンの地の名祖となった息子ラケダイモンを生みました。
一説によると、父神が彼女を追い回すのを不快に思ったアルテミスが彼女を黄金の角を持つ雌鹿(いわゆるケリュネイアの雌鹿)に変えたと云われます。
            
<ケライノ>
            
 ポセイドンの愛人となり、息子のリュコスを生んだ。ポセイドンはこの息子を愛し、死後の楽園である至福者の島に住まわせました。
             
<アルキュオネ>
            
 ケライノの後にポセイドンの愛人となり、ヒュリエウスとヒュペレノルという2人の息子とアイトゥーサという娘を生みました。
            
<ステロペ>
            
 軍神アレスと床を供にしてピサ王オイノマオスを生みました。
            
<メロペ>
            
 姉妹の中で唯一、死すべき人間であるコリントス王シシュポスに嫁いで息子グラウコスを生みます。
しかし夫のシシュポスは、ゼウスがアソポス河神の娘アイギナを拉致して手籠めにしたという秘密を河神に密告したり、死を逃れようとして死神タナトスを縛り上げ投獄したりする狡猾な悪人で、女神の夫たるにふさわしい人格者ではありませんでした。

 いよいよ冥府に下らなければならないときが来ても彼はまだ観念せず、妻のメロペに「決して葬儀を行うな。供物も捧げてはならぬ」と命じて逝きました。
何時までたっても遺体を埋葬しようとしないメロペに対して冥王夫妻が「死者への礼を欠いている」と立腹すると、シシュポスは「葬儀を出してくれるよう妻に頼みに行きたい」と言葉巧みに嘆願し現世に帰還、そのまま何事もなかったかのように地上に居座り、まんまと長寿を全うしました。
            
 しかし当然ながら神々の怒りは激しく、再び冥府に戻った彼は有無を言わさずタルタロスに突き落とされて永遠の苦役を課せられました。
メロペは姉妹達と供に星になりましたが、女神でありながらそんな夫を持った恥ずかしさに耐えきれず、天から姿を消してしまったと云われています。
2009/04/21

プルトス

<愛すべき神の恵み>

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  大地の実りをいっぱい詰め込んだ「豊饒の角」を抱える幼い男の子――微笑みを誘う愛らしい姿をした福の神プルトスは農耕の女神デメテルの愛児です。

  デメテルが彼の父親となる人物と出会ったのは、調和の女神ハルモニアと英雄カドモスの結婚式でのこと。
神界を挙げて催された盛大な祝宴に列席した彼女は、ハルモニアの兄弟分として出席していた若者イアシオン(ゼウスとエレクトラの子)と熱烈な恋に落ちました.
宴果てた後、彼らはイアシオンが住むクレタ島に移動し、3度鋤き返した畑の上で心からの抱擁を交わしましたが、これを知ったゼウスは女神が人間を愛したことに激しく嫉妬し、自分の息子であるにも関わらずイアシオンを雷で撃ち殺してしまいました。

  デメテルが行った畑での生殖行為は農地の生産力を高める豊饒の儀式の一形態です。
よって、この聖婚によって誕生したプルトスは豊かな富、特に穀物の実りを象徴する神として母デメテルや姉ペルセポネとともに崇拝されました。
エレウシスの秘儀に入信して両女神の恩寵を受けた者のもとにはプルトスが遣わされ、その家は豊かな繁栄を享受したといわれます。

  また、古代彫刻などにおいては、プルトスは平和の女神エイレネや幸運の女神テュケの腕に抱かれた姿で表されたり、職人たちの守護神アテナ・エルガネ(工芸神アテナ)像と一緒に祀られたりしました。
これは平和・幸運・勤勉といったものが富をもたらすことの象徴で、恵みの神というよりも、むしろプルトス自身が神々の恵みそのものといった感じですね。
2009/04/19

四季を司る女神達

<働き者の女神達> 

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 ホーラ達は神々の王ゼウスとその2番目の妃である法の女神テミスの間に生まれた三姉妹の女神です。
ギリシア語の hora は英語の hour の語源であるため、一般には時の女神であるとか季節の女神であるとか言われますが、そんなふうに限定するよりもっと大きく捉えて「地上世界の秩序ある運行を司る女神達」であると考えた方が良いと思います。

  1日の時間の経過も1年の季節の推移も、総て彼女達の監督によって規則正しくこの世に齎されています。
エウノミア(秩序)・ディケ(正義)・エイレネ(平和)という名は母テミスの性質を受け継いだこの親切で正直な女神達が我々に与えてくれる恩恵を表しているのです。

  ホーラ達は季節の運行を齎す者で或るが故に、地上にオイテは女神デメテルと供に人間達の農作業に心を配ります。
又、時間の巡りを司る者でも或るが故に、天に於いては太陽神ヘリオスの馬車を仕立ててその光が世界を照らしにいくのを助けます。

  さらには地上と天界をつなぐ門の番人をも務め、出入りする者があれば叢雲を開き、また閉ざします。
他にもヘラやアプロディテなどの大女神に侍女として仕えたり、神々の宴席では黄金の器に盛った食べ物を運んだり輪舞を踊ったりと、何処か李朝時代の妓生を思い起こさせます。

  尚、一般にはホーラは3人とされていますが、後代になると四季に対応させて4人とか、1年の月数或は1日の時間帯に対応させて12人と考えられるようにもなります(その場合彼女たちはヘリオスの娘神と見なされます)。
星座のお話で紹介した、アルクトゥールスも12人説に含まれる、女神の一人です。
2009/04/18

アトラス

アトラス

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  双肩に大きな天球を担ぎ上げ、膝を曲げた苦しげな姿勢でその重みに耐える男の姿を、彫刻であれ絵画であれ、1度はご覧になったことがおありでしょう。(上図参照)
その人物(神)こそ、1人で広大な天空を支え続ける、巨神アトラスです。

  彼はタイタン族の1人イアペトスの息子で、タイタン戦争(ティタノマキア)の際にはクロノス陣営の戦力として大いに活躍しました。
その筋骨隆々たる巨躯と恐るべき怪力を武器に戦場で鬼神のごとく荒れ狂うアトラスに、オリュンポス陣営は散々な目に遭った伝承されています。

  しかし、結局のところ戦いはオリュンポス軍の勝利で終幕。
しかし、勝てば官軍での喩え通り、人一倍暴れ回って自分の力を見せつけたアトラスの立場は他のタイタン族より具合の悪いもので戦犯扱いとなりました。
その為、ゼウスをはじめオリュンポス陣営の恨みを買っていた彼には特別な罰が言い渡されました。

「アトラスよ。汝は他の者達同様、タルタロスに追放はしない。その代わり、汝は未来永劫この世界の果てで天空を支えるのだ。」
 
  その残酷な命令を実行に移せるだけの怪力を持っていたのがアトラスでした。
以後彼は世界の西の果てに立ち、見事に課せられた重荷を支え続けました。
2009/04/16

パンドラの箱

パンドラの箱

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 「最初の人間の女」であるパンドラは、人間とプロメテウスへの厳罰のために、ゼウスの命令で工匠・へパイストスが作ったと云われています。
彼女は、愚かな好奇心によって、自らの持参した”パンドラの箱”を開けてしまい、この地上にあらゆる災難を振りまく事になりますが、本々がゼウスの陰謀であり、彼女が箱を開ける事は、必然だったのでしょう。

 このパンドラの夫であるエピメテウスは、兄のプロメテウスのような卓越した頭脳は無く、その名前の通り(エピメテウスとは”後から知るもの”の意)、愚かな神であり、この度のゼウスの陰謀にもパンドラの美しさに惑わされて、まんまとはまる形となったそうです。
とは言え、この二人は、中々夫婦円満な家庭を作っていたようであり、二人の間には、ピュラという娘が生まれており、このピュラは、のちにデウカリオンと夫婦になり、ギリシャ人の祖先となる人物です。

 このパンドラとエピメテウスは、極めておろかで傍迷惑な夫婦であると言われていますが、どこか親しみを覚えるのは、彼らがギリシアの人々の祖先に当たるからなのかもしれません。
2009/04/15

アルテミス

アルテミス

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<生と死の大女神>

  美しくも冷たく、厳しくも恵み深い、ギリシア神話を代表する女神の1人です。
  神々の王ゼウスと女神レトの間に生まれた愛娘で、双子の弟アポロン(アルテミスを妹とする説もありますが、彼女の誕生日はアポロンよりも1日早いので、姉とした方が妥当です)と同じく偉大な力を宿しています。

その権能は、
1.黄金の弓矢で山野の獣を狩り斃す狩猟の女神であると同時に、彼らを愛し護る野獣の女王
2.優しい矢(Agana belea)で女たちを射抜いて苦痛なく即死させる死の女神
3.月満ちた子供を胎内の闇から光あふれる外界へ連れ出す出産の女神
4.成人前の少年少女を保護する処女神
など多岐に渡り、アポロンよりもずっと原始的な、しかしより根源的なやり方で生物の生と死に深く関わっている事が解ります。

  またアポロンと共に光明神としての性格も持っている為、後には月の女神セレネと同一視され、月神としての職能も帰せられるようになりますが、これはいくら何でも過労というものでしょう。
太陽や月の運行は年中無休ですから、これを担当する神は他の仕事はできません。
もしアルテミスが夜毎に天空を駆ける月神であったら、彼女が楽しんだといわれる松明を掲げての夜の狩りはまったくできなくなってしまいますよね。
ですから天体としての月を司るのはあくまでもセレネ、アルテミスはせいぜい月属性の女神の1人と考えて両者を区別しておく方がギリシア神話は解釈しやすいと思われます。
2009/04/14

お札

お札の話

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 「まんが日本昔ばなし」にも登場したお札のお話です。
昔々あるお寺の小僧さんが、和尚様の言う事を少しも聞かないので、怒った和尚様は何か困った事があったらお札にお願いをしなさいと言い、三枚のお札を持たせて寺を追い出してしまいました。

 小僧さんは、仕方なく山に行き、山で出会ったお婆さんの家に泊めてもらいます。
小僧さんが寝ていると夜中、隣の部屋から物音がするので、そっと襖を開けると、一人の山姥が、大きな包丁をといでいました。
招待を見られた山姥は、小僧さんを縛りますが、小僧さんが厠へ行きたいと言うと、腰に縄をつけられてしまいます。

 小僧さんは厠の柱に縄を結わいつけて、厠の神様に後を頼んで、急いで逃げ出します。
山姥は、騙された事に気がついて、凄い形相で追いかけてきますが、小僧が和尚様に貰った三枚のお札を投げると、それぞれ川、山、火をつくって小僧さんを助けてくれました。

 命からがら寺に逃げ帰った小僧さんを追いかけて、山姥も寺にやってきます。
和尚様に助けを求めると、和尚様は山姥と化け比べをはじめると、豆の様に小さくなった山姥を和尚様が食べてしまい、小僧は救われて心を入れ替えてよい子になった。

 三枚のお札は黄泉国、冥界、(異界)を訪れた者が、幾多の冒険や難題を克服して、再びもとの世界へ戻るという冥界訪問譚の一つでもあり、概要にあるパターン以外にも色々詳細が違うものもあります。
寺に叔母と名乗る人が来て小僧を自分の家に誘ったりするのですが(実は山姥)、どうも不審に思って心配した和尚が、小僧に三枚のお札を持たせるというお話もあります。


<厠の神>

 話の中にでてくる厠の神とは、此の世とあの世、生と死を媒介する境界神的な性格を持っていて、
日本では、厠に神が宿るとして祭る風習が広くあり、妊娠や産出を見守る存在としての産神(うぶがみ)としての性格や、家の神として家人や、子供を守る存在でもあります。
2009/04/13

「禁忌」

「禁忌」

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 このお話は、「日本昔話」でアニメ化されましたので、ご記憶の方も多いと思います。
昔々、一人の旅人が、旅の途中、野原で立派な屋敷を見つけ、屋敷に案内されます。
屋敷の綺麗な衣装を纏った若い娘が、旅人を持成すと、若い娘は、屋敷の中にある蔵一つ一つ案内します。
案内してくれた蔵では、夏・秋・冬・の景色が見え、その不思議なそして美しい意光景に旅人は見入ってしまいます。
やがて、若い娘は「自分はこれから出かけるので留守番をしてほしい、ここには四つの蔵があるが、最後の蔵は見てはいけません」といって、出かけていきます。
旅人は、先の三つの蔵の風景が忘れられず、とうとう禁を破って最後の蔵の扉を開けると、鶯が梅に止まっていました。
鶯は飛び立ち、同時に屋敷も蔵も消え、旅人は野原に一人取り残されたのです。

 このお話は、別名「鶯浄土」「鶯の内裏」とも呼ばれています。
鶯の住む異界に人間が入ってしまう異郷譚の形式の昔話です。
このお話の主題は、「見てはならない」と禁じられた部屋を見てしまう「禁忌」を犯す事にあります。
「禁忌」は日常生活において、秩序と均衡を保つための決まりであり、昔話を通じて「約束を守らないと破局を招く」といった訓戒を示しているのでしょう。

 このお話の展開は幾つかあり、話の発端部分で男が鶯の命を救ってやり、鶯がお礼に招いてくれる報恩譚形式や、後半部で男が禁忌を守って御礼を貰い、それを見た隣の者が真似をして失敗する隣の爺譚の形式とるものもあります。
四つの蔵の部分も、十二の座敷の場合もあります。
開けてはいけない扉も十二番目だったり、一月から十二月と暦にみたて二月の扉(梅と鶯の季節)になっている場合もあります。

2009/04/11

因幡の白ウサギ 

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 大国主命(おおくにぬしのみこと)の兄弟の神様達は、因幡(鳥取県)に住む八上比売(やがみひめ)と結ばれる事を望み、因幡へ行った時に、神様たちは、大国主命に荷物の袋を背負わせ、従者として同行させました。

 やがて、気多の岬(けたのみさき)に着いた時、全裸の兎が泣いておりました。
そこで、神様達は、兎に、

「これ、兎、 体が痛いのなら、海の水を浴びてから、風に吹かれて、高い山の上で横になるが良い。」

 海の水の塩が乾いてくる度に、吹く風が皮膚に刺ささるように痛み出しましたので、その痛さに耐えられず泣いていたところへ、最後に通りかかった大国主命がその姿を見つけて言いました。

「御前は、そこで泣いている。」
「はい、私は、隠岐の島(おきのしま)に住んでおり、この因幡に渡って来たかったのですが、渡る術がなかったので、海の鮫(ワニザメ)を騙して、こう言ったのです。『俺と御前で、どちらの仲間が多いかを比べてみよう。御前は、自分の仲間をすべて連れて来て、この島から気多の岬まで、一列に並ばせてみてくれ。そしたら、自分は、その上を踏んで走りながら数を数えよう。これで、どっちの仲間が多いかわかるだろう。』こうして、鮫を騙して海の上に一列に並ばせて、私はその上を数えながら走って来ましたが、この地に下りようとした一歩手前で、迂闊にも『バカなサメども。お前等は騙されたんだよ。』すると、一番最後に伏せていた鮫が、私を捕まえて、毛を剥いでしまったのです。それで困って泣いていたところ、先程通りかかった神様達が、海水を浴びて、風邪に吹かれて寝ていろと教えて下さったので、そのとおりにしていたら、わたしの全身が傷ついてしまったのです。」

 そこで、大国主命は、その兎に教えました。

「今すぐに、河の水で体を洗いなさい。それから、その河口に生えている蒲の花を採って来て、その黄色い花粉をまき散らして、その上をゴロゴロと転がりなさい。そうすれは、貴方の体中の膚が治るでしょう。」

 こうして、ウサギが言われた通りにしたところ、すっかり元どおりに治りました。
「因幡の白兎」のお話です。
2009/04/10

春の星座

春の星座(おさらい)

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 4月の夜空は、西の空に冬の星座が輝いていますが、南天から東天に目を向けると、春の星座が輝きます。
今月は、冬から春へと季節が移り変わる途中の星空となります。

 南の空の春の星座は、空高くしし座があります。
このしし座には、今年は土星と、1等星レグルスが輝いています。
又、しし座のデネボラと、おとめ座のスピカうしかい座のアークトゥルスを結ぶと春の大三角が完成します。

北の空を眺めると、おおぐま座に輝く、北斗七星が見つかります。
この北斗七星の柄の部分を伸ばすカーブを、春の大曲線と呼びます。
このカ-ブの途中には、スピカアークトゥルスが輝いています。
そしてさらに先に、四角形の形が目印になる、からす座が見えています。

一方南西の空に見える、冬の大三角やオリオン座などは、高度が低くなり、だんだんと見つけにくくなってきました。
2009/04/09

しし座(ネメアの化け獅子とヘラクレス)

獅子とヘラクレス

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 この獅子は英雄ヘラクレス が成した12の功業の1番目、エウリュステウス王の命令で退治したネメアの大獅子と言われています。

 ギリシア最大の英雄ヘラクレスは大神ゼウスと、ミケナイの王女アルクメネの間に誕生した子です。
ゼウスの浮気に加えて、ヘラクレスが余りに優秀な子だったので、ゼウスの妻である女神ヘラに酷く憎まれていました。
ヘラは陰謀を巡らし狂気の女神を遣わして、ヘラクレスに狂気を取り憑かせ、メガラとその間にできた3人の子供を、ヘラクレスの手で殺させてしまったのです。
正気に戻ったヘラクレスは、その罪を償う為、神託によってティリンスの王エウリュステウスの下で、10の難業を成し遂げなければなりませんでした。
しかしながら、卑劣で臆病者のエウリュステウス王はヘラクレスを恐れていて、難業を名目にヘラクレスを殺してしまおうと考えていました。
そこでまず1つ目の難業は、ネメアの森に棲む大獅子を退治せよというものでした。

 この獅子はネメアの谷に住みついて、家畜や人を襲って食らう恐ろしい人食いライオンでした。
ヘルクレスは棍棒をふるってライオンを追いつめ、腕力で首を締め、その皮をはぎとり、頭にかぶってエウリュステウスのもとへ持ち帰ったのです。
獅子の皮をかぶったヘラクレスの姿を見たエウリュステウスは、本気でヘラクレスのことを恐れるようになり、それ以降ヘラクレスが町の中に入ることを許さず、ヘラクレスが戻って来ると聞くたびに地面に埋めた大きな青銅の瓶の中に隠れたそうです。

 後にヘラクレスがケンタウロスのネッソスの呪い によって、火中に身を投げて死んだ時に、この獅子も、伴に天に昇って獅子座となったのだと言われています。
そしてこの獅子の皮は、常にヘラクレスが肩にかけていたため、ヘラクレスのシンボルともなっています。

2009/04/08

からす座

からす座

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 うみへび座の北に、3等星が4個かたまって、小さな台形を作っているのがからす座で、歪んだ四辺形を形どっている姿は、紀元前1900年位から記録が存在し、古来、船乗り達から大型帆船の縦帆に喩えられたと云われています。

 イギリスでは「スパイカのスパンカー」という別名があります。
英語で「スパンカー(spanker)」と言うのは、大型帆船の最後部の帆柱の下に張る縦帆の事で、 昔、星を頼りに航海した船乗りの間で言い広められた名前です。

 日本では、からす座の4つの星を「四星(しぼし)」「四つ星」や、スパンカーと同じようなイメージで「帆かけぼし」、 「枕星」や「はかま星」と呼ばれ、これもこの星座の形からきています。
他にも「皮はり星」「むじなの皮」など、 猟師がムササビやムジナを捕まえて、その皮を剥いで四つ足に釘を打って乾燥させるときの形をイメージした呼び名もありました。
能登半島の一帯では「帆かけ星」と呼ばれ親しまれています。

 中国の二十八宿では「軫宿(しんしゅく)」と呼ばれ、アラビアではこれを砂漠で張る天幕の形とみて「アル・キバ」と呼んだそうです。

<からす座にまつわる神話>

 ギリシャ神話では、このからす、元々は太陽と音楽の神「アポロン」の従者で、綺麗な銀色の羽を持ち人間の言葉を喋ったと云われています。
ある時、アポロンは、テッサリアの王の娘コロニスと恋に落ち、このからすを彼女に与えました。
しかし人間の言葉の分かるからすは、ある日コロニスが若い男と親しく話しをするのを見て、このことをアポロンに告げ口をしました。
これを聞いたアポロンは怒り矢を放って、コロニスを殺してしまったのです。

 実はこの時、コロニスは子を宿していて、「どうかこの子だけは助けて下さい」との願いに、アポロンは自らの過ちを後悔し、余計な告げ口をしたからすの羽を真っ黒にし、天に上げてしまいました。
からすは、天に上がった後もそのバツとして目の前の水(コップ座)にくちばしが届かず、いつも喉の渇きが癒せないでいるのだそうです。

2009/04/07

かんむり座

かんむり座

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 春も愈々、終わりを告げる頃、牛飼い座のすぐ東隣に見られる小さな星座で、7個の星が半円形に並び、小さいながら王冠のように美しい形をしています。
アルファ星ゲンマは「宝石」の意味で、文字どおり王冠の中央に位置し、宝石の様に輝いています。

 7個の星がくるりと半円形を描く姿は、ギリシア神話では、この様に伝えられています。
地中海のクレタ島にある地下宮殿の迷路の中に、頭が牛で体が人間の姿をしたミノタウルスという怪物が閉じこめられていました。
アテネの人々は、毎年、少年と少女を生贄としてミノタウルスに捧げなければなりませんでした。
アテネのテセウス王子は、ミノタウルスを退治する為、自ら生贄の一人に加わり、クレタ島に向かいました。
やがてテセウスは、クレタ島の王女アリアドネと恋に落ち、アリアドネは剣と、迷路から抜け出せるようにと毛糸をテセウスに渡し、無事にミノタウルスを退治して戻ってきたテセウスは、アリアドネを連れてアテネに戻ります。
しかしテセウスは、アリアドネを途中に立ち寄ったナクソス島に置き去りにしてしまったのです。

 酒の神デュオニュソスはこれを見て哀れに思い、アリアドネに宝石を散りばめた黄金のかんむりを贈り妻としました。
そして王女の死後、ディオニュソスが冠を天に投げ上げると、その七つの宝石が星になって、このかんむり座になったと云われています。

 星座内には80年に一度明るくなるTCrBという新星や、突然暗くなるRCrBという変光星があります。
2009/04/06

プレセペ星団

プレセペ星団

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 「プレセペ」(M44)は、かに座の甲羅の部分でぼんやりした光芒を放つ、1.5度ほどの範囲に広がる大型の散開星団です。

 太陽系からの距離が520光年と、同じ散開星団の仲間であるプレアデス星団(410光年)よりやや遠く、実直径は13光年あり,実際にも大柄な星団です。
具体的には、月の3倍程の広がりの中に70個ほどの星が集まっています。

 プレセペは、古代から知られていた数少ない星団の一つで、各国には様々な伝説が残されています。
「プレセペ」はラテン語で「飼い葉桶」という意味です。
これは南側の上下にある星を2匹のロバに喩え、その餌を食べる為の桶を星団に見立てた姿です。
この他,イギリスではミツバチの巣という意味の「ビーハイブ」、中国では死んだ人の魂という意味で「積尸気(ししき)」と呼ばれていました。

中でも、プレセペを天気と関連づけたものが多く残されていて、すっきりと晴れた夜でないと見えないことから、 この星々が見えないということは、嵐の前兆と考えられていました。

 他にも、この星団は、古代から恒星ではなく、何か雲のような天体として知られていましたので、 バイアーはこれにヌピルム(雲)と記し、 ギリシアの天文学者ヒパルコスはネフェリオン(小さい雲)、アトラスは小さい霧、と呼んでいました。
ギリシアの哲学者プラトンは、人間の霊魂の天上界への出入り口だと考えていたようです。

 1609年にガリレオが初めて望遠鏡を向ける迄、この星団が美しい星々の集まりである事は謎のままでした。
 
2009/04/05

うみへび座

うみへび座

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 南の空を東西に横切るうみへび座は春から夏にかけての夜空に見える非常に大きな星座で、頭が東の空から上ってきて、しっぽの先が現れる迄に、なんと7時間もかかる長大な、 全天88の星座の中でこれ程長い星座は他にありません。
これ程大きな星座ですが、目立つのは蟹座のすぐ南で小さな6個の星が一塊に成っている海蛇の頭にあたる部分から、海蛇の心臓に赤く輝くα(アルファ)星アルファルド(アルファード)迄で、 後は、しし座、おとめ座の南側から、てんびん座近く迄達する胴体が長々と横たわり、之は、天球の円周4分の1以上にも達しています。

 最も古い時代のうみへび座に関しての記述はバビロニアの古い星座図で、 カルデア辺りの人々によって星座の原形が作られたとされる紀元前3600年頃、既にシール(蛇)として描かれていました。 当時のうみへび座は歳差運動の為、天の赤道上に在った事が計算上明かにされていて、 春の日没には南の中天に長々とかかっていたはずで、1等星こそありませんが巨大な蛇を思わせるには十分だったはずです。

 ギリシア神話でのうみへび座は、海蛇では無くヘラクレスの12の偉業の一つ、アルゴスの沼地レルネに住むたくさんの頭を持つ怪蛇ヒドラだと云われます。

 中国では、うみへび座が非常に長いので3つの星宿に分けて、頭の部分を柳の枝の巻いた形とみて「柳宿(りゅう)」と呼び、逸話も残されています。
「長恨歌」で有名な唐の詩人白楽天も、長安の柳の枝が春風に吹かれ柔らかに靡いている様を歌い、それが大変美しいものだったので、帝はその柳をわざわざ宮中に移し植えさせました。
それに感激した白楽天は更に詩を作って「天もこれに感じて、この後、柳宿の星に柳の枝が増えるに違いない」と歌ったと云います。

 中国では又、この柳宿の形を鳥の形とみて朱鳥とも呼びました。
これは鳳凰という鳥の事で、α星アルファルドの色が赤いことからきていると云われています。
2009/04/04

ミザールとアルコル(2回目)

ミザールとアルコル

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 先に北斗七星のお話のでミザールとアルコルを紹介しましたが、文献のなかで、この2つの星について、興味深い部分を紹介。

 ミザールは、北斗七星の柄の先から2番目に見えるζ(ゼータ)星で、アルコルとの肉眼的二重星です。 アルコルは、別名サイラク(目だめし)と呼ばれ、 遠い昔、アラビアでは兵士の目の検査に使っていたことなどが知られています。
ミザールの光度は2.3等、距離は88光年と計算されており、アルコルは4.01等で、この2つの全光度は太陽のおよそ15倍です。
1650年にリッチョーリによって発見された最初の二重星で、300年以上にわたって最も話題にされてきた二重星の一つです。

 ミザールとアルコルは肉眼二重星ですが、ミザール自体も、同じくらいの光度を持つ非常に接近している状態の二重星で、20.5日の周期で周りあう連星です。
このミザールの横に望遠鏡で分離できるミザールB星があり、 これもまた二重星で、182.33日の周期で周りあう連星です。
更に、このミザールBの周りを1350日という周期で公転する星が確認されています。
また、ミザールの肉眼二重星であるアルコルも二重星であることが分かっています。

 このような観測結果から、肉眼ではごく普通の2つの星に見える「ミザール」と「アルコル」は、実際には(現時点の観測結果によると)七重星をなしているということです。

<重星発見の経緯 > 

 1889年、ピカリングは、主星のスペクトル線が周期的に二重になっていることを確認し、このペアが非常に近接していることを発表しました。
又、二重線の強度が等しいことから、この2つの星の光度がほとんど等しく、実験の結果いずれも太陽のおよそ35倍であることや、公転周期は20.5386日で、計算によると両星間の距離は約2,900万kmほどであることが確認されました。
1908年、E.B.フロストによって、実視ペアの伴星の方(ミザールB)も、分光二重星であることが発見されました。その後、1964年に、W.R.ベアズリーによって、182.33日という周期が発表されました。
現在では、更にミザールBを1,350日周期で公転する星の存在が確認されています。



2009/04/03

かみのけ座

かみのけ座

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 獅子座の尻尾に当る1等星デネボラの東、猟犬座のすぐ南に春霞の様な星の群れが目に止ります。
これが、神話に関連して別名「ベレニケの髪」とも呼ばれる星の集まりで かみのけ座の中心です。
ぼうっと見える星の群れの正体は、直径5度くらいの範囲に約40個の星が一塊になっている「Mel.111散開星団」で、髪の毛座の目印です。
星図では、星団のまわりの3つの4等星を結んで、かみのけ座を表わしています。

 この星座の歴史は古く、紀元前3世紀の博学家エラトステネスにより「良き行いのベレニケの髪の毛」という名で記されており、 近年になって発表された文献の中には、1536年ペトルス・アビアヌスの絵入り星図に「Crines Berenices(ベレニケの髪の毛)」と記されていますが、 正式に星座としたのは、16世紀デンマークの天文学者ティコ・ブラーエで、彼の星表の中に「Coma Berenices(ベレニケの髪の毛)」の名前で記していますが、 現在では、単にComa(髪の毛)と呼ばれます。

 又、この星座についての神話は史実に関係のある伝説で、紀元前3世紀頃、 エジプトを治めていたマケドニア王朝の第三代の王プトレマイオス三世と、その妻になったキュレネの女王ベレニケ二世の話が伝えられているものです。
2009/04/02

北極星

こぐま座と北極星

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 北斗七星を含む「おおぐま座」と、北極星を含む「こぐま座」は、春から夏にかけて北の空に見られる星座です。

 ギリシア神話によれば、この熊は、大神ゼウスに見そめられたニンフ(妖精)カリストと,その子アルカスの姿とされています。
ゼウスの妻ヘラの怨みをかって大熊に変えられた母カリストを、それと気づかずに槍(弓)で仕留め様としたアルカスを哀れんだゼウスが、息子も小熊の姿に変え、天に上げて星座にしたのだと云われています。 

 北極星は、こぐま座の尻尾の先に当る場所で輝く、淡い黄色みを帯びた2等星で、地球の自転軸の付近に位置している為、殆んど位置を変える事無く、北を指し示す星として有名です。
西洋では極の星という意味の「ポラリス」「ポーラスター」、中国では、「北辰(ほくしん・・辰は星の意味)」「天皇大帝」、日本でも「子(ね・・・北の意味)の星」「北の一つ星」などと呼ばれていました。
 
こぐま座の星の呼び名


 又、中国では、こぐま座付近の星の列を紫微垣(しびえん)と呼び、天帝の住居と捉えていました。
その中で最も重要であるはずの「帝星」と呼ばれていたのは、現在の北極星ではなく、β星の方でした。
この星に付けられている「コカブ」というのは、「北の星」という意味です。
これは、天の北極が約2万6000年の周期で移動して行く為で、今から2000~4000年前は、こぐま座のβ星の方が天の北極に近かったのです。

 実際の北極星は、太陽系からの距離約430光年にある星で、距離のわりに明るく見えることから、太陽と比べても大型の恒星であることが判ります。
中口径以上の望遠鏡でみると、9等の伴星が直ぐ傍に寄り添っているのを見ることができます。
2009/04/01

おとめ座

おとめ座

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 おとめ座は晩春から初夏にかけての夜空に見える星座で黄道12星座。
全天で2番目に大きな星座で、その姿は星図で翼の生えた乙女の姿で描かれ、 白く輝くスピカを含む「Yの字」に似た星の並びの星座です。

 春の宵の南天で、唯一つ輝くスピカの穏やかな白色の光は、 清純な乙女を思わせる事から、日本では『真珠星』とも呼ばれます。
地球(太陽系)からの距離は350光年、表面温度22.000度という高温の星で、 マイナス2等の主星とマイナス0.3等の伴星が、互いに僅か4日周期の猛烈なスピードで回りあっているという星です。
純白に輝く女性的なスピカと、オレンジ色に輝く男性的なうしかい座のアルクトゥールスとを一つのカップルに見立てて「春の夫婦(めおと)星」とも呼ばれていました。

 星座絵で描かれている乙女は、ギリシア神話では、麦の穂を持っている事から農業の女神「デメテル」,あるいは、その娘である豊作の女神「ペルセポネ」の姿であるとも云われています。
その乙女の持つ麦の穂先の部分がスピカにあたり、ラテン語で「とげとげした穀物(こくもつ)の穂(ほ)」を意味しています。
他にも正義の女神アストラエアとする説もあり、おとめ座の隣に位置するてんびん座は、女神アストラエアが正邪を計った天秤といわれています。

 またエジプトでは、オシリスの神の后女神イシスの姿だといわれ、バビロニアでは女神イシュタルの姿とされました。