2009/06/30

ギリシア神話の神々26

<英雄オイディップス>

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 オイディップスを語る前に、彼の父親であるライオスの物語を少々。
ライオスはカドモスの曾孫で、テ-バイの正統な世継でしたが、当時摂政をしていたリュコスが夫婦揃ってゼウスの寵愛を受けたアンティオペを虐待した為に、ゼトスとアムピオン(ゼウスとアンティオペの子)によって王国を奪われました。
この時、ライオスはまだ子供でしたが、ペロプスが治めていた国ピサに逃れます。

 ペロプスは後に、ピサの王女ヒッポダメイアに求婚して、その国の王になっていたのです。
ライオスは、此処でペロプスの妾腹の王子クリュシポスに 戦車競技を教えていましたが、やがてこの王子に懸想するようになり、彼を犯そうとします!
 
 ちなみに王子は男の子、ライオスも男。
クリュシポスは、同性愛の相手になる事を拒みましたが、ペロプスの本妻ヒッポダメイアに暗殺され、騒ぎを恐れたライオスは、急ぎ自分の生まれ故郷のテ-バイに逃げ帰ります。
未遂とはいえ、王子を強姦されそうになったペロプスは、ライオスと諍いを起す事はありませんでしたが、代わりにその後3代に渡る呪いをかけたのです。

 ライオスはテ-バイの王位に付いて、ペンテウスの孫にあたるイオカステという若く美しい王女と結婚したのですが、彼は結婚前に自分がアポロンの神託によって、ペロプスに呪われている事を知っており、 アポロンの巫女は更に「男の子が出来れば、その子は成長して父を殺し、母を犯す」とも告げたのです。

 神話において神託は、必ず実現するので、賢明な人間ならば一生を独身で通したでしょう。
嘗て身につけた者を必ず不幸に陥れた「ハルモニアの首飾り」は、イオカステに贈られ、夫婦伴に健康であれば、子供はやがて生まれます。
或は、この子供の誕生こそが神の意思だったのかも知れません。

 ライオスは預言を恐れ、生まれたばかりの赤子の足をピンで突き刺した上で、家来に渡し、キタイロンの山に捨てさせ、其の内寒さに凍え死にさせるか、野獣に食われるかするだろうと考えたのです。
その後、ライオスはイオカステとの間に子供が出来ないように気を配り、少年ばかりを寵愛していたと伝えられ、王妃がいるにも関わらず、同性愛に奔る王を嘆かわしく思ったのが、結婚の女神ヘラでした。
 
 国王の倫理に反した恋は、ヘラの怒りにより国全体を不幸に巻き込みます。
ヘラによってテ-バイに送られたのが、怪獣スピンクスで、エジプトが起源とされるこの怪物は、ギリシャでは美しい女性の顔と胸にライオンの胴と足と尾を持ち 背中に翼が生えていると言われています。

 この怪物がテ-バイの国境地帯に居座り、通りすがる者に謎をしかけては、答えられない者を取って食っていたのですが、何しろ国境に居座られ、この時のテ-バイの経済は、文物の交流が滞り破綻していったのです。

続く・・・・

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2009/06/29

ギリシア神話の神々25

<ディオニッソス・Ⅲ>

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 黄金の魔術から醒めた、ミダス王はすっかり華美を嫌うようになり、宮殿を出て森でシレノスと語り合ったり、森の神パンを崇拝するようになりました。
このパンが、アポロンと音楽の腕比べをすることになったのですが、どうもこの腕比べ、パンの方から言い出した競技らしいのです。
審査員にミダス王、山の神トモロス、そしてゼウスの娘である9人のムーサ(芸術の女神達) 。

 パンの吹く笛は、とても素朴な牧歌的な音色。
一方アポロンの奏でる竪琴は、華やかで洗練された調べ。
この勝負、アポロンの勝ちだったのですが、ミダス王はこれに意義を申し立てました。
ミダス王には、アポロンの音楽は派手すぎたのでしょう(好みの問題)。
 
 パンの演奏の方が、優れていると言うミダス王の審判に、アポロンは腹を立ててしまい、「御前の様な音楽の分からない者が、人の耳を持つ必要はない!」と言って、ミダス王の耳をロバの耳に変えてしまいました。
ロバの耳では流石に恥ずかしいので、ミダス王は、プリュギアの帽子の中にこれを隠していました。
国民は誰も王の耳が、ロバの耳だという事は知りませんでしたが、ある日、髪結いにバレテしまいます。

 ミダス王は、髪結いにロバの耳の事は、決して口外しないように申し渡したが、髪結いは「こんな面白い事!」とでも思ったのか、話したくて話したくてたまりません。
しかし、王の怒りが恐ろしいので、髪結いは地面に穴を掘り底に向かって語り始めます。
「王様の耳はロバの耳ぃ~」
そして、その上に土をかけたところ、やがて其の場所から葦が生えて、風がそよいで秘密を語ったのです。

続く・・・・


2009/06/28

ギリシア神話の神々24

<ディオニッソス・Ⅱ>

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 ディオニッソスが旅していた時の事、舞台は小アジア、プリュギア、時の王はミダス王。
この王の屋敷にディオニッソスの養父であるシレノスが、仲間から逸れて迷い込んでしまったのですが、シレノスが大変な知能の持ち主である事を知っていたミダス王は、その知恵を自分に伝える事を求め、そしてシレノスを歓待しました。
 
 9日間シレノスは、ミダス王の屋敷で飲み食いをして、ミダス王はその間、ずいぶん痛快な話を聞いたようでした。
10日目にディオニッソスの元にシレノスを送り届けると、幾日も世話になった事を神は大変喜んで、「礼に何でも願いを叶えてやろう」、と言いました。
 
 ミダス王は、「この手に触れる物が全て金になるように」、と願い、ディオニッソスは内心、もっとマシなものを願えば良いのに、と思ったかもしれませんが、ともかく王の願いを叶えてあげました。
 
 さて、ディオニッソスと別れたミダス王、願いが叶ったかどうか、試すべく庭の木の枝を折ってみると、小枝が黄金に変わり、落ちている石ころを拾い上げると、それも金に変わりました。
次に手を洗うと、水が金に変わってころころと転がって落ち、食事を言いつけて、パンに手をかけるとそれも金に変わり、では肉は……と思って肉をつまむとそれも金に変わってしまいます。
 
 「これではいずれ飢え死にしてしまう」。
この辺りでミダス王は、自分の邪悪な能力に気がついたはずです。
ある時、駆け寄る幼い娘を抱き上げたとき、娘は黄金に変わってしまい、息をしていない!
 
 王は再びディオニッソスに願います。
「この力を取り上げてください」と。
ディオニッソスが、パクトロス川の上流で身を清めればこの力はなくなる、と言うのでそのとおりにすると、 ミダス王の力は無くなりました。
これ以降、パクトロス川には砂金が産出されるようになったそうです。

続く・・・・

2009/06/27

ギリシア神話の神々23

<ディオニッソス>

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 ゼウスが、腿に縫いつけた胎児は無事に生まれてきました。
その名は「デイオニッソス(2度生まれた者)」。
英語ではバッカスと言い、酒と演劇の神で、エクスタシーの本尊で本人も陽気な性格、とは言え、ディオニッソスの幼年時代は苦難の連続でした。
母セメレは、ディオニッソスが生まれる前に亡くなり、 彼は生まれた直後、異母兄ヘルメスに連れられて、セメレの姉に当たるイノの元で少女として育てられました。
 
 ところがイノは、ヘラの呪いによって、海に自分の子共々身を投げ出してしまい、次にディオニッソスが身を寄せたのが、巨神族アトラスの5人娘のヒュアデス達。
信用できるニンフ達でしたが、彼女達も些細な事で星になってしまい(ヒュアデス星団)、最後にディオニッソスを育てたのがシレノス。
 
 ハゲ頭で太鼓腹の山野の精。
そのひょうきんな外見とは裏腹に、大変な知恵者で予言の能力も持っており、 こんなシレノスから、ディオニッソスは、葡萄の栽培方法とワインの製造法を教わり、それを広めるべく、地中海沿岸からアジアやアフリカを旅して回ります。
ディオニッソスの後には、養父で従者のシレノスを始め、酒に酔った好色なサテュロスやあられもない格好の女がついて回り (この女達を、マニアとかバッカンテとか言います)、彼の信者の数は日増しに増えていきました。
 
 いつも酒に酔っている集団を連れて、ディオニッソスは故郷テバイ(カドメイア)に戻ってきたのですが、この時のテバイの王はディオニッソスの従兄弟にあたるペンテウス。
極々常識的なこの王は、ヨッパライの新興宗教団体をみて吃驚仰天し、彼は断固としてディオニッソスに対決する構えを見せたのです。
ところが彼の母アガウエも、アガウエの妹達もディオニッソスの信者になってしい、堪忍袋の尾が切れたペンテウス。
 
 彼は変装して、キタイロンの山で行われているディオニッソスの祭りに乗り込んだものの、信者達に見つかってしまい、酔って狂ったアガウエは、「怪物がいる! 退治して」と、これまた酔った群衆をけしかけ、ペンテウスは叔母達に腕をつかまれ、命を落としてしまいます。
母が自分の息子を殺してしまったのに気がついたのは、素面に戻った時でした。

続く・・・・


2009/06/26

ギリシア神話の神々22

<デメテル・Ⅱ>

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 エリュシクトンはギリシャ北部のテッサリアの王でしたが、 事もあろうに、この王がデメテルを怒らせてしまいました。
ペルセポネの事件でも分かる様に、この豊穣と収穫の女神を起こらせる事は、世界に災いが起こる事でもあります。
彼は、デメテルの聖なる森の木を切り倒しましたが、この木はとりわけ古い木で、御神木を表す縄が、結ばれ、叶えられた願いの御礼の札も掲げられていたのです。

 信心深い人が、 止めるように制するのを、エリュシクトンは聞かず、彼はその木を切り倒します。
何故、此処までエリュシクトンは、木を切る必要があったのでしょう?
単に、自分の屋敷に木材が必要だったのに過ぎないのですが、この木に住むニンフ、老樹の精ドリュアスの命脈が尽きてしまい、付近に住む森のニンフが黒い衣をつけ、デメテルに訴えました。
 
 それはエリュシクトンの非道を罰するように願うもので、 デメテルは彼女に相応しいやりかたでエリュシクトンを罰したのです。
それは恵みの女神の裏返し、飢餓に取り付かせる事でした。
女神は、北の果てに住む飢餓の神を呼び寄せて、エリュシクトンの胃の中に住まわせ、次の日、エリュシクトンはどうしようもない空腹に襲われました。
それは食べても食べてもまだ空腹な感覚。
そしてエリュシクトンは、国一つが養えるであろう食料を集め回りますが、食べても食べても満腹感は得られません。
 
 先祖伝来の蔵も食いつぶし、家屋敷も食いつぶして、エリュシクトンには娘一人だけが残ったのですが、自分の財産のみならず、国の保管の食料まで食いつぶした国王を国民は見捨てました。
とうとうエリュシクトンは食料の為、娘を奴隷に売りに出し、誇らかな娘は奴隷の身に落ちるのを悲しみ、嘗てポセイドンの寵愛を受けた事のある娘メストラは、両手をさしのべ、海神に祈ったのです。
「私を奴隷の身分から救ってください!」

 ポセイドンは、その願いを聞き入れメストラに変身の術を授け、彼女は自分に買い手がつくと、隙をついて猟師の男に化けて 逃げ出し、父の元に戻ります。
娘に変身の術があるのを知ったエリュシクトンは、再度メストラを売りに出し、そして、娘は父の元に帰って来て、父はまた娘を売るのです。
 
 こうしてメストラを売った金で、エリュシクトンは食いつないだのですが、終にある日、メストラは配偶者を見つけたのか、2度と父の元に帰って来ませんでした。
エリュシクトンの飢餓は頂点に達し、彼はとうとう自分の肉を切り裂いて食べる事になり、こうして、我と我身を食いつぶしたエリュシクトンは死んでいったのです。

続く・・・・
2009/06/25

ギリシア神話の神々21

<デメテル>

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 昔、世界に冬は無く、地上はいつも穏やかで暖かでした。
デメテルは、クロノスとレアの2番目の娘で、ガイア、レアに続く大地の女神です。
彼女は、結婚はしていませんが、父親の違う子供が何人か居り、中でもデメテルが目の中に入れても痛くないほどに可愛がっているのが、ゼウスとの間にできたペルセポネです。
 
 デメテルは娘に魔法の絵の具を与え、この絵の具で春の花に彩色するのがペルセポネの仕事。
ある年の4月、友達のニンフと花を摘んでいたペルセポネを冥界の王ハデスが攫って行きます。
花嫁にしようとしたのです。

 愛娘が行方不明になったので、デメテルは半狂乱になり、女神の仕事を放り出して、娘探索の旅に出かけてしまいます。
実は何時までも独身であるハデスにペルセポネを花嫁に勧めたのはゼウス本人でした。
そうとは知らないデメテルは、もう大地などどうでも良いと、旅に出かけ、大地の女神に見捨てられた大地はもう何も実を結ばなくなります。
 
 地上に冬がやって来ます。
ペルセポネの誘拐場面に居合わせたのは太陽神ヘリオスで、彼からペルセポネはハデスの花嫁として攫われたことを聞いたデメテルは更に仕事を放棄してしまい、地上は飢えて渇き、人も動物も死に絶えそうでした。

 この惨状を見るに見かねたゼウスが、妥協案を出します。
それは、ペルセポネが冥界で何も食べていなければ、地上に戻れるというもの。
一方、冥界ではペルセポネがハデスに持成されていたものの、金銀宝石を積み、優雅な踊り子や歌い手が、ペルセポネに用意されてもペルセポネは、長いことハデスに屈しません。
口もきかず、食も摂りませんでしたが、しかし、空腹が彼女を襲います。
ペルセポネは、とうとう冥界のざくろを4粒食べてしまったのです。

 ヘルメスは冥界に向かい、彼が冥界のペルセポネに会った時、既にざくろを食べてしまった後でした。
冥界の食べ物を口にした後は、もう地上には戻れない決まりです。
ゼウスは再び妥協案をだします。
ペルセポネが食べたざくろは4粒。
それは1年のうち4ヶ月だけ冥界のハデスと供に過ごし、残る8ヶ月は母デメテルと過ごすというもの。
デメテルもこれで納得し、ペルセポネが地上に姿を見せた途端、地上に春がやってきました。

 しかし今後、ペルセポネが冥界で過ごす4ヶ月はデメテルが仕事を放棄するので、冬の到来となります。
デメテルは、本来温厚な女神とされますが、機嫌が悪くなると地上には飢饉が訪れたりするのです。

続く・・・・

2009/06/24

ギリシア神話の神々20

<アテナ・Ⅱ>

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 メデューサの他にもう一人、大した罪でもないのに、アテナの怒りを買って、酷い目にあった女性がいます。
その彼女の名はアラクネ。
小アジア、コロポンの町に染物の名人の父親と住んでいました。
ギリシャ神話上、アラクネが美女だと言われる事はありませんが、彼女の機織は見事で、彼女の仕事振りは美しかったのです。

 そして誰かが「工芸を司る、知恵の女神アテナに教わったに違いない」と噂しました。
しかし、この言葉は、アラクネ自身にとって誉め言葉とは解釈されず、むしろ自尊心を傷つけられてしまいます。
「オリンポスのどの神様でも、私ほど巧みに機を織れる者はいない」 とアラクネは自慢してしまいます。

 神が人間の愚かな発言を見逃すわけは無く、おまけにアテナはかなりプライドが高い。
最初、アテナは老婆に化けて、アラクネを諌めに行きましたが、自分の腕に慢心していたアラクネは、その忠告を受けず、「そんなら私と織り比べをしてごらん」と言ってしまいます。

 アテナは仕方なく、かりそめの姿を捨て、本来の姿を現し、二人の機織競争が始まりました。
アテナとアラクネは、金糸銀糸の美しい糸を惜しげも無く使い秘術を尽くし、やがてアテナが織り上げたのは、オリンポスの12神と神に懲らしめられる人間を模様にした布でした。
一方、アラクネが織り上げたのは神々と人間の女性の恋愛模様で、彼女が織り上げたのは非の打ち所の無い美しい布でした。

 どちらが優れているか、優劣の区別もつけようのない競争でしたが、アテナはアラクネを許さず、アラクネの布をズタズタに引き裂いて、なおかつアラクネを打ち据えました。
アラクネは絶望して自ら縊れ、これを見て初めてアテナは怒りを解いたと云う事です。
死んだアラクネに神水をかけると、アラクネは蜘蛛に変わり、巧みに織る技だけが残されたのです。

続く・・・・




2009/06/23

ギリシア神話の神々19

<アテナ>

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 或る日、ゼウスと知恵の女神メティスは恋をします。
メティスの結果は、ご想像のとおり。
実はメティスの産む男の子は、何時か父を超えて、全能神の地位につくという予言がなされていましたから、ゼウスは、懐妊したメティスを頭から飲み込んでしまったのですが、こんな状態でも、神の胎児は育つのです。
 
 或る日、ゼウスは激しい頭痛に侵され、息子のヘパイストスに斧でもって頭を割って貰う(!?)。
するとゼウスの頭から、灰色の瞳の、鎧兜に身を固めた既に成人した乙女が誕生しました。
母同様、アテナは知性の女神でありますが、飲み込まれても黙っている母程 温厚ではなかったのです。
知恵と戦争、工芸を司る女神であり、因みに処女神。 

 さて、ここに一人の女性が登場します。
髪の毛の一本一本が蛇と言う女性の怪物ですが、生まれたときからこんな姿だった訳ではありません。
ゴルゴン三姉妹の末っ子として生まれましたが、彼女だけは流れるような金髪の美少女でした。
しかし不死ではなく、 ゴルゴンとは本来、世界の西の果てで、大人しく暮らしているらしいのですが、メデューサは限りある人生をおもしろおかしく暮らそうと思ったのか、大都会アテナイに住んでいました。
 
 メデューサがアテナを怒らせたのは、自分の美貌と髪の美しさを自慢した為だとか、 アテネの神殿で海神ポセイドンと愛し合ったとか、色々言われています。 
経緯はどうあれ、アテナを怒らせたメデューサは美しかった金髪を蛇に変えられて、顔まで醜くなりました。
彼女を見た者は、恐怖のあまり石になると言われています。

続く・・・・

2009/06/22

ギリシア神話の神々18

<エロス・Ⅴ>

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 それでも怒りを静めないアフロディテは、最後にとんでもない難問を出しました。
其の難問は、冥界に住むペルセポネから、彼女の美しさを分けて貰うというもの!
其の為の箱を渡されはしたものの、冥界に行くには一度死なないといけないと考えたプシュケは、高い塔に登って身を投げようとした時、それを制したのは塔自身。
塔は、洞穴から冥界に行く道を教えてくれました。

 此処から行く方法は、ケルベロスやカロンも心配ないらしいのですが、ペルセポネから箱に美しさを入れて貰っても、其れを覗いて見るのは強く禁じられました。
無事に冥界に着いて、ペルセポネから美しさを分け与えて貰ったプシュケは、命を捨てずに済んで嬉しかっただろうに、 先程あれ程注意された「箱の中を覗いてはいけない」という注意を忘れてしまい、とうとう我慢しきれずに 開けてしまいました。

 プシュケが箱を開けると、そこに美しさは入っていませんでしたが、代わりに、「眠り」が入っていて、プシュケに襲い掛かり、 彼女は激しい睡魔に襲われ、もはや眠り続ける屍と化してしまいます。
やがて傷の癒えたエロスが、プシュケを探しに来て、彼女に取付いている「眠り」を箱の中に戻し、 アフロディテから言いつけられた仕事を片付けるように告げると、エロスはゼウスの下に向かい、母アフロディテの気持ちを和らげるよう懇願しました。

 ゼウスはエロスの願いを叶えただけではなく、この時プシュケにネクタルを与え、神々の列に加え、
プシュケの背中からは蝶のような綺麗な翼が生え、そして後に二人の間には「喜び」という名の女の子が生まれました。

 ギリシャ神話上のエロス(性愛)は主に肉体の愛を意味しているらしいので、そこにプシュケ(精神)と結ばれて、「喜び」が生まれるのです。

2009/06/21

ギリシア神話の神々17

<エロス・Ⅳ>

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 エロスと別れたプシュケは、何時の間にか姉達がいる草原にいました。
そこで彼女は、姉達に会うと、宮殿内で夫を疑って起こってしまった出来事を話しましたが、姉達は、プシュケに同情を寄せている風だったが、内心では喜んで今度は自分達がエロスの宮殿に行って楽しい生活をしようと目論見ます。
しかし、以前のようにゼピュロスが現れなかったので、姉達その願望を達する事はできませんでした。
 
 プシュケはエロスの居所を探し幾日も幾日も歩き回り、その間に様々な神々の姿を見かけましたが、 神々は内心ではプシュケに同情していたかも知れませんが、アフロディテが今回の事で大層立腹しているのを知っているので誰も救ってはくれません。

 唯、その中でデメテルだけはプシュケに助言を与えます。
「プシュケの為にエロスは、肩と心に重い傷を負ったので、母アフロディテの宮殿で手当てを受けている。とにかくアフロディテの宮殿に行って、詫びを入れなさい」と。
 
 果して、プシュケがその通りにアフロディテの宮殿に赴くと、デメテルの言う通りアフロディテは、大層怒っていて、プシュケに難問を出したのでした。

 それは大麦、小麦、黍を仕分けする作業で、これらの穀類は女神のお供につれている白鳥や鳩の餌に使われていて、その大変な分量は、とても一人で出来る訳がなく、それなのに女神は当日の日暮れまでというノルマを課しました。
プシュケが途方にくれていると、本心では未だプシュケに未練があるエロスが、それを察知して、彼は蟻に命じて穀類の分別をさせます。
何千匹もの蟻が日暮れまでにその仕事を片付けると、アフロディテは固くなったパンの欠片をプシュケに投げ、明日はもっと仕事をさせると告げました。

 2番目の仕事は、川の向こうにいる羊達の黄金の毛を取って来るもので、簡単な仕事に思われたが、川を渡ろうとするプシュケを、川の神が止めました。
日中の羊達は恐ろしく気がたっているので、行くのなら日が暮れて羊が眠ってから、抜け毛だけを集めるように、川の神は勧めてくれたので、この仕事も難なく成し遂げたプシュケに、アフロディテは更に立腹して3度目の難問をだしました。

 3番目の其は高い山に登って物忘れの水を瓶いっぱいに汲んでくる事で、登ることの困難な高い山にその泉は在り、泉の両側には恐ろしい竜が住んでいる洞窟が有るのですが、この仕事を手伝ってくれたのはゼウスが飼っている鷲でした。
この鷲はエロスが常日頃可愛がっていたらしく、 鷲はプシュケから瓶を奪うと、さっさと水を汲んできてしまいました。

続く・・・・

2009/06/20

ギリシア神話の神々16

<エロス・Ⅲ>

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 エロスの姿は、見えませんが、愛されてプシュケはそれなりに幸せでした。
しかし、どんなに愛されていても、見えない相手では、プシュケの寂しさは募るばかり。
更に、 自分が怪物の生贄にされたものだと思い込んでいる、父母を安心させてあげたいとの思いも強く最初、エロスは反対していたが、プシュケの姉二人との再開は、渋々ながら許されました。

 ゼピュロスによって、姉二人がエロスの神殿に招かれましたが、かつては仲が良かったであろう、この姉妹。
姉二人は、妹を心配しながらも、いざプシュケが豪勢な暮らしを楽しんでいるらしいのを知ると、途端にそれまでの姉妹愛は消えてしまい、プシュケに対する妬みの気持ちが強くなってきました。
そしてプシュケが、未だ夫たるエロスの顔を見ていないのを知ると、姦計を巡らし彼女を諭します。
 
 夜にしか現れない夫、顔を見せない夫、それはきっと怪物なのだから、殺すほうが良いと。
姉の言葉に、一抹の不安を抱いていたプシュケ。
姉は故郷に帰り、夜には姿を見せないエロスが、館に戻ります。

 夜にエロスが寝静まった頃、彼女はナイフを握り締め、明かりでもって夫の顔を照らすと、何と、其処に居たのは、有翼の美青年エロス。
てっきり怪物が自分の夫になったものと思い込んでいたプシュケは驚き、その時エロスの顔を照らしていた明かりの油を一滴落としてしまったのです。
熱いそれが、エロスの肌にかかると、彼は火傷の痛みで飛び起きてしまいました。
寝ていたところに熱い油を肌にたらされたら、神でも怒るのは当然。

 自分の失態から金の矢を自等を刺してしまったとは言え、エロスはプシュケを愛していたはずでした。
「お前は、私の愛を疑ったのか。もう二度と会う事はない!」
そう言い放つと、エロスは何処かに飛び去ってしまいます。

 愛は信頼の無いところには存在しないのだから。
 
 愛の神を夫にしながらも自分の軽はずみな不信からエロスを失ったプシュケの悲しみは深かったのですが、プシュケはすぐに気を取り直します。
そして健気に決心したのです。
自分の今後の一生は、エロスを探し出し、エロスを取り戻そうと。

 「もし仮にエロスがプシュケに対する愛情が少しも残っていなかったとしても、私がどんなにエロスを愛していたかと言う気持ちだけは伝えよう」と心に誓い、 その日からプシュケは、エロスを探す旅に出かけました。

続く・・・・
2009/06/20

ギリシア神話の神々15

<エロス・Ⅱ>

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 昔々、或国に3人の王女がいました。
非常に美しい姫君達で、その中でも末の姫君、プシュケの美しさは、愛と美の女神アフロディテをも凌ぐと言われ、その様な神を蔑ろにするような、評判を女神が聞き逃すはずは無く、アフロディテの差し金か、哀れなプシュケは姉二人が嫁いだ後も、求婚してくれる男性も現れないまま、年を重ねていきました。
 
 こんなに美しく非の打ち所の無い娘なのに、と両親は思ったはず。
神託にて伺いをたてると、プシュケは怪物の人身御供とすべし、との回答が得られる始末。
時を同じくして、アフロディテはプシュケの寝所にエロスを差し向け、エロスの矢により、姫が身分卑しい男と結ばれる計画が着々と進められていましたが、幸か不幸か、寝所の中のプシュケの寝顔にエロスはしばし見とれ、自分の金の矢で誤って自分を刺して(!)しまいました。

 その後……。
プシュケの両親は、泣く泣く娘に花嫁衣裳を着せ、山頂に残し、彼女が不安な気持ちを堪えながら、山の頂で過ごしていると、彼女の身体は突然西風の神ゼピュロスによって持ち上げられました。
ゼピュロスは、エロスの元にプシュケを運んだのですがこの時、プシュケは自分の行く末が分からなかったに違いありません。
 
 相手がエロスだと言うことも分からずに、プシュケは美しい庭園に囲まれた宮殿に運ばれました。
この宮殿では、扉はひとりでに開き、姿を見せない召使によってプシュケのあらゆる用事をこなしています。
そして夜になると、エロスはプシュケの元に訪れますが、この時、まだプシュケはエロスの姿を見た事は無く、ゼウスとセメレの例を引く迄も無く、命限りある人間の身で神の姿を肉眼視する事は、破滅を導きます。
しかし、エロスはプシュケを労わり、プシュケは幸せに暮らしました。

続く・・・・



2009/06/18

ギリシア神話の神々14

<エロス>

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 背中に羽があり、弓矢を持った少年の姿で親しまれるエロスは、その名の通り「愛欲の神」なのです。
英語では「キューピッド」(なんとなくイメージできると思います)。
彼はカオス(混沌)から生まれて、様々な自然の生殖を促したとも言われますが、アフロディテの息子であるとも言われています。
絵画の世界では大抵アフロディテと一緒に居ることが多いようです。

 エロスは、金の矢と鉛の矢を持ちます。
金の矢を射られた人は、その時見た人に恋心を抱き、反対に鉛の矢を射られると、その時見た人を憎むようになります。
エロスは、大変悪戯好きな神でもあるので、恋愛に関する悲喜劇がギリシャ神話にも多数存在します。
ミュラが、父親に恋するようになったのもエロスのせいだ、と言えます。

 エロスは、誕生しても長いこと成長する事なく、いつまでも子供の姿のまま。
母であるアフロディテは、心配を重ねます。
やがて、後にアフロディテには、エロス以外の子供が何人か出来ました。
そのうちの一人が「アンテロス」(相思相愛)。
誰かが誰かを好きになると、そこに愛(エロス)は誕生します。
しかしながら、好きになった相手からも好きになってもらわないと、愛は育ちません。
愛を与えるエロスが、何時までも子供だったのはそういう訳なのです。


2009/06/17

ギリシア神話の神々13

<アポロン・Ⅳ>

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 ダフネは、アポロンを嫌って月桂樹に変身し、ヒュアキントスはアポロンを残して亡くなっていきました。
他にも片手に掬った砂の数だけの寿命を貰いながらも、青春を貰うのを忘れたシビュレーはどんどん年老いていき、予言術を授けたカッサンドラーは、近い将来アポロンに捨てられることを予言した為、神の愛を拒みます。
アポロンの恋は実らないことが多い様子ですが、そんな中でアポロンと結ばれたのが、ラピテース族の王の娘コロニス。
 
 彼女はオリンポス山の麓の国に住んでおり、神の寵愛を受け、その腹に子を宿しました。
しかし、アポロンは多忙でしたので、デルポイの神殿で預言や神託を伝える事も疎かにできません。
当然、コロニスと会うこともままならず、アポロンは一羽のカラスを彼女の元に送り、カラスはアポロンの思いをコロニスに伝えます。
そんな或る日、カラスはコロニスが若い男と親しげに話している場面に遭遇してしまいます。
カラスはすぐさま、アポロンにその事を伝えました。
 
 アポロンは悩みます。
会いにいけない間、コロニスは他の男に心移りしたか?
その時の様子をまた心配して見ているのが、双子の妹のアルテミス。
コロニスが、他の男に想いをよせているらしいと聞いて、アポロン以上に怒り、神の愛を受け入れながら、他の男に心移りするのは許せないと、コロニスに制裁を加えました。
アルテミスの放つ矢は、恐ろしい疫病となって国中に広まり、そして火葬の中のコロニスの腹から、まだ息のあった自分の息子を取り出したのです。
 
 この子がアスクレピオス。
コロニスはアポロン以外の男性と結婚した事はなく、実はカラスが見た相手の男は親類だとも幼なじみであるとも言われています。
以降、アポロンの使いを勤めたお喋りカラスは、コロニスの喪に服するためそれまで真っ白だった羽毛をアポロンによって真っ黒にされてしまいました。
 
 アスクレピオスは、アポロンによってケンタウロス族のケイロンに預けられました。
彼はクロノスとオケアノスの娘ピュリラから生まれ、ゼウスとは異母兄弟にあたります。
血筋も良い上、非常に賢明で正しく、音楽、医術、狩、運動競技、予言の術に優れ、ギリシャ神話に登場する数々の英雄はほとんど皆、幼い頃にケイロンを養父としています。

 ケイロンはアスクレピオスには医術の知恵を授け、成長して、アスクレピオスは師を越えるほどの名医となり、彼にかかると死んだ人間まで生き返ると言われ、そのせいで、ハデスの治める冥界はしばらく人口が増えなくなったと言われています。

 そのころ、アテナイでは英雄テセウスの長男ヒッポリュトスが父から勘当されていました。
愛や恋を汚らわしいものとし、言い寄る女性を退ける行為の怒りを感じたのは愛と美の女神アフロディテ 。
ヒッポリュトスに片思いしていた女性達の中には、継母であるパイドラも居たのです。
ヒッポリュトスは、父や女神アフロディテを怒らせたせいで、命を落とすことになります。
彼が、海浜を戦車をかって走るうちに海神ポセイドンの寄越した怪物に驚いて、狂った馬の手綱に巻かれて引きずられ、命を落としてしまいますが、このヒッポリュトスを生き返らせよ、とアスクレピオスに依頼したのはアルテミスでした。
アスクレピオスは、既に亡くなったヒッポリュトスに治療を施して、そして患者は生き返ります。

 常々、死んだ人間を生き返らせる事を、苦虫を噛む思いで見ていたのは冥界王ハデス。
ハデスはゼウスに 「死人が出なければ、地上は人間が増えすぎて人口過多や食糧難を招く」と訴え、それはご尤もと、ゼウスは納得します。
そして電光を手に取ると、たちどころにアスクレピオスを撃ち殺してしまいました。
 
 人間離れした才能のある子を殺されたアポロンは、悲しみそして怒りは、頂点に達して、 ゼウスの電光を作ったキュクロプスのいる鍛冶場を強襲します。
何も悪いことをしていない彼らを殺した事に、当然ながら今度はゼウスが怒り、 その罰としてアポロンはしばらく人間界に下って、「ペライの王の下僕として暮らせ」と、告げられました。

 亡くなったアスクレピオスは、医神として崇められ、各地にアスクレピオスの神殿が建てられ、その神殿は医学知識の宝庫となり、彼の妻や子達もそれぞれ医療の道に進んのです。
2009/06/16

ギリシア神話の神々12

<アポロン・Ⅲ>

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 ヒュアキントスはアポロンの恋人でした。
彼は、本当に端正な顔立ちの愛らしい少年で、古代ギリシャでは同性愛は決してタブーではありません。
他の神々も時々は、男同士の恋愛に目覚めたりする事も。
そしてこの美少年に横恋慕する男神がもう一人……。
 
 西風の神ゼピュロス。
曙の女神エオスの子ですが、エオスが産んだ風の神々は、問題児が多かったのです。
東風エウロスは、いつも不機嫌で気まぐれ、船乗りを悩ませました。
南風 ノトスは、暖かいが疫病を運びます。
北風ボレアスは、乱暴者、嵐や災いを好みました。
西風ゼピュロスは、4兄弟の中で一番親切、雪を解かし、穀物を育てる優しい風を吹かせます。
 
 生まれたばかりの美と愛の女神アフロディテをキュプロスに運んだのも彼でした。
そんな彼も恋に関しては、自分勝手かも知れません。
ヒュアキントスが、自分よりもアポロンを選んだ事が面白くなかったのでしょう。

 ある日、アポロンは、ヒュアキントスと開けた野原で円盤投げをしていました。
アポロンが円盤を投げた時、ゼピュロスは横風を吹き付けました。 
円盤は急に横に反れ、ヒュアキントスの顔面に激しく当たってしまいます。
少年は血にまみれて倒れ、アポロンの腕の中で死んで行きましたが、その血を吸った大地からは赤いアイリスの花に似た花が咲きました。
これが今日、ヒヤシンスと言われる花なのです。

続く・・・・


2009/06/15

ギリシア神話の神々11

<アポロン・Ⅱ>

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 ダフネはテッサリアの河神ペネイオスの娘。
女神アルテミスに随行する、ニンフの一人で、清純な女神を敬愛し、常日頃から父には、
「私はアルテミス様のように、一生独身でいたい」
 と言っていたそうです。
「それはいいけど、男どもがそれをほっとくのかい?」
 当然、父は心配して言います。
ダフネは自分が、 美女であることの自覚が全く無かったのです。

 さて、場所が変わって或る日の事、アポロンはエロスが弓矢で遊んでいるのを見かけました。
このエロスを からかってしまいました。
「子供が弓矢で遊んでは危ないよ」
念の為に、エロスは子供の姿をしていても、ギリシャ神話では誰よりも早く生まれているのです。
アポロンよりかなり年上なので、エロスはからかわれた事に腹をたてました。

 エロスは黙って二本の矢を箙から出して、つがえます。
一本は金の矢で、もう一本は鉛の矢。
エロスは金の矢をアポロンめがけて撃ち、鉛の矢をダフネに撃ったのです。
金の矢は恋心を抱く矢。
鉛の矢は恋を拒む矢。

 二本の矢が胸に刺さった瞬間、二人は出会いました。
アポロンは、激しくダフネを恋い慕い、ダフネはアポロンを避けるようになります。
アポロンは、逃げ回るダフネを相当にしつこく追い掛け回します。
足の速いアポロンから逃げ回り、ダフネは父ペネイオスのいる河迄辿り着きました。
「お父様! 助けて下さい!」
 父は娘を助けた!

 ダフネは、みるみる足から硬い樹木に覆われ、腕も髪も月桂樹の木に変身していきます。
アポロンが、その木に駆けつけたときダフネの最後の心臓の鼓動が聞こえていました。
「ああ、ダフネ!」
 アポロンは狂気のように叫んだ!
「お前は永遠に私の妻になれない。でもお前への愛の記念に私はお前の葉で冠を作ろう」
美術作品に見るアポロンは、たいてい月桂樹の冠を被っているのは、こんな物語が背景にあったからでしょう。

続く・・・・

2009/06/14

ギリシア神話の神々10

<アポロン>

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 或る日の事、ゼウスはガイアとウラノスの孫娘に当たる「黒い衣のレト」という娘さんに恋をし、レトはすぐに身篭もりました。(神話ではゼウス最初の不倫ではないかと思われます)
レトが懐妊した時は、既にヘラがゼウスの妻となって久しかったのです。
ヘラはゼウスの愛人やその子供達を執拗に追い詰め、全世界に御触れを出します。

「一度でも陽の光を浴びたことのある土地はレトに産所を提供してはなりません!」
 
 レトは出産の場所を求めてさすらう事になりますが、出産が近くなっても彼女は身を横たえる場所すらもありません。
誰も彼もがヘラを恐れて、場所を貸さないのです。
彼女が、最後に辿り着いた場所は当時浮島だった「デロス島」。
草木も生えない不毛の土地ですが、実はこの島、レトの妹アステリア(星女神)が変身した姿でした。
 
 ゼウスはレトと交わった後、妹のアステリアにも求愛を申し出ましたが、アステリアはゼウスの申し出を断り、 怒ったゼウスがアステリアを島に変身させたのです。
この島は今まで沈んでいたので「この世で一度でも日に当たった場所」という条件には当てはまらず、アステリア=デロス島はレトを迎え入れ、自分の上で出産するように勧めました。
この時、陣痛に苦しむレトに付き従ったのは、ディオネ、レア 、テミス、海の女神アンピトリテ等。
 
 ヘラはその場におらず、自分の娘である出産の女神エイレイテュイアをオリンポス山上の黄金の雲の後ろに隠しました。
側にいる女神達は、エイレイテュイアを迎えに虹の女神イリスを使わし、彼女はエイレイテュイアに首飾りを渡すと(賄賂)、デロス島に下りてきました。 
レトが出産をすると、島中が黄金色に輝いたとも、白鳥が歌いだしたとも、伝えられています。

 こうして生まれた男女の双子がアポロンとアルテミスです(英語名ではアポロとダイアナ)。
妹のアルテミスの話しは先に<アルテミス>で書きましたのでアポロンについて。
アポロンは医学、数学、音楽の守り神となり、太陽神とする物語や絵画も残されています。
更には予言を司り、楽人の王、神託の王、黄金の弓の支配者と数多い異名を持っています。

 ギリシャの神々は基本的に「不老不死」ですが、絵画では何故かゼウスやディオニッソス(酒神)は中年から老人の姿で描かれる事が多く、反対にアポロンは、永遠の若さを持つ青年神とされ、理想的な肉体を持つ神として描かれています。

続く・・・・


2009/06/13

ギリシア神話の神々9

<エオス>

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 エオスは曙の女神。
彼女の美しさを形容する言葉に「サフラン色の衣装」、「雪の瞼」、「薔薇の指先」、と字面も華麗な言葉が続きます。
エオスの日課はパエトン(輝く者)とラムポス(光)という名の馬が引く戦車に乗って、太陽神ヘリオスを導く事から始まります。
父はティタン神族のヒュペリオン(太陽)、兄弟に前述の太陽神ヘリオス、姉妹にセレネ(月の女神)がいます。

 エオスは最初、アストライオス(星男)と結婚して、ゼピュロス(西風)を始めとする風の神々と明けの明星を含む星々の母になりましたが、後に軍神アレスに言い寄られ(若しくは通じた?)、 この事で彼女を恨んだのが、愛の女神アフロディテ。
アフロディテはエオスに罰を与えます。
誰彼なしに恋をすると言う罰、しかもその相手は人間の男たち。

 エオスは早速好みの美青年を見つけると、自分の宮殿に攫っていきました。
しかし、不老不死の女神と違って、青年達は、いずれ老いて女神を残して亡くなっていきました。
エオスから見ればそれは、一瞬の出来事に違い有りません。
エオスが恋したのは、ヘルメスの息子ケパロス。

  彼は妻帯者でしたが、余りに妻の下に帰りたがっていたので、故郷に戻しました。
他に狩人オリオン。
オリオンは狩の女神アルテミスに気変わりします。
トロイアの王子ガニュメデスを攫っていったのは、エオスだという説もあります。
ガニュメデスは、ゼウスに気に入られ、オリンポスの酌夫になりますが、後にエオスは日の出の際、水がめ座やオリオン座の付近を迂回するようになったと云います。
これ等の他にエオスと死別した、青年達は数知れません。

 またしてもエオスは恋を繰り返し、トロイアの王子ティトノスに好意をよせます。
そしてゼウスに懇願します。
「彼に永遠の命を与えて欲しい」と。
ゼウスはその願いを叶え、 嬉々としてエオスの宮殿で蜜月を過す二人。
ティトノスとの間には、メムノンという息子が誕生します。
しかしティトノスの不死を願う際、「不老」を願うのを忘れていたエオス。
まもなくティトノスは足腰が立たないほどに老いていきます。
そうなっても尚、エオスの宮殿で神々の食べ物を食べ天上の衣を纏うティトノス。
そんなティトノスを宮殿の一室に閉じ込めて、エオスは仕事に出かけて行きます。

 或日、久しぶりにティトノスの部屋を訪れたエオスは、そこに一匹の蟋蟀だけが居たという事です。
二人の間に出来たメムノンは、後にエチオピアの王となり、トロイア戦争が起きた時に故郷の応援に駆けつけたものの、アキレウスに敗れます。
夫のみならず、我が子をも先に亡くしたエオスの悲しみは深く、朝早くに草の上に溜まる露はエオスの涙だとギリシアでは、伝えられています。




2009/06/12

ギリシア神話の神々8

<アルテミス・Ⅴ>

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 ニオベはゼウスの孫にあたり、彼女の父タンタロスは人間でありながら、神々に寵愛されてオリンポスの宴席にも参列していました。
しかしゼウスの息子にしては大変な愚か者で、宴席での神々の噂話に尾ひれをつけ吹聴したとか、出されたネクタルやアンブロシアを持ち帰ってしまったとか、いろいろ言われていますが、彼の悪行の中でもっとも有名なものは、なんと言っても息子ペロプスを殺害してその肉でシチューを作り神々に饗した事でしょう。

 こんな事をすればいくら子供に甘い親ゼウスでも怒ります。
神々はその肉を口につける前に、人肉だと言うのをすぐに見抜いていましたが、ただ一人デメテルだけは気づかずに口にいれてしまいました。
ちょうどこの時、娘のペルセポネがハデスに誘拐されている最中で、そっちの方が気がかりだったからでしょう。

 神々はすぐにペロプスを蘇生させましたが、デメテルが消化してしまった肩の肉だけは元に戻らなかったので、その部分だけは象牙で補ったと言う事です。
以降、ペロプスの子孫は肩の部分だけが白いと言われています。

 タンタロスはタルタロスに落ち、未来永劫に続く厳しい罰を受けることになりました。
それは池の中に首まで水につかるというもの。
喉が渇いて水を飲もうとするとその水はなくなり、 頭上にたわわに実っている果実は食べようとすると枝が遠ざかります。
この飢えと乾きは永遠に続いたのです。

 こんなタンタロスの娘がニオベ。
彼女は殺されもせず無事に生き延びました。
兄を殺してタルタロスで罰を受けている父でも、ニオベはそれでも神々の宴席に参加したタンタロスを父として尊敬していたようです。
ニオベは、ゼウスとアンティオペの間に生まれたテバイの王アムピオンに嫁ぎ、 彼女はアムピオンとの間に産みも産んだり、男女7人ずつの子宝に恵まれました(人数については諸説あり)。
 
 自らの美貌と夫婦ともにゼウスの血を引く家系と、優れた子供達、広大な領土、ニオベの自慢の種はつきません。
ニオベの自惚れはとうとう自分を女神にたとえるところまで行ってしまいました。
 
 そのころ、テバイでは預言者テレイシアースの娘マントーが通りを触れ歩いていました。
マントーは、アポロンとアルテミスの母であるレト女神を崇拝せよ、と布教活動をしていたのです。

 ところがマントーが神殿の中に入るやいなや、ニオベが階に近づいてきて叫びました。
「なんというキチガイ沙汰なの。レト女神はアポロンとアルテミスの二人を産んだだけ。私はゼウス様の子孫を14人も産んだのよ。私のほうがレトなどより遥かに幸運に恵まれた幸せ者よ」

 このような不敬な言葉をレトは、オリンポスの山の上でアポロンとアルテミスと共に聞いていましたた。
一般にレト、は蜂蜜のように甘い女神のように言われていますが、こんな温厚な人でも怒るときは相当に怒ります。
レトは早速、アポロンとアルテミスに命じました。
自分に対する不当な扱いに仇を討ち、アポロンとアルテミスに二人の神格を証明するように命じたのです。
 
 アポロンとアルテミスは弓に弦を張り、矢をつがえ、二人はニオベの子供達目がけて、矢を放ちます。
矢は恐ろしい疫病となり、罪のない子供達は次々と病に倒れていきました。
突如、身に降りかかった悲劇に激しく意気消沈したニオベは、テバイを去り故郷のプリュギアに戻り、悲嘆にくれ彷徨い歩きながらの帰国だったが、故郷にいても安息は得られず、毎日亡くなった子供達を思い、泣き暮らしていました。
その姿を哀れに思ったゼウスがニオベを石に変え、それは今日もなお涙を流していると言われています。

続く・・・・

2009/06/11

ギリシア神話の神々7

<アルテミス・Ⅳ>

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 可也季節外れですが、冬の夜空に輝く星座オリオン座の物語。
彼は主に海神ポセイドンの子であると言われています。
オリオンは、父ポセイドンから海の上を闊歩する能力を与えられ、また優れた狩人でもあり、逞しく凛々しい美青年であったので、女性にも手が早かったらしいとの事。

 ある時、オリオンはキオス島に赴いたとき、島の王オイノピオン(葡萄酒飲み)に島を荒らす大獅子を退治して欲しいと依頼されましたが、その見返りはオリオンが恋する王の娘メロペを嫁にする事。
オリオンは張り切り、そして難なく大獅子を退治してしまいましたが、それに困惑したのはオイノピオン自身でした。
実は最初から王女をオリオンに嫁がせる気がなかったので姦計を用いて、すなわちオリオンを酒で酔い潰し、そして目玉をえぐり海浜に捨て置いたのです。
途方にくれたオリオンは鍛冶の神ヘパイストスに懇願します。

 そしてオリオンは、ヘパイストスの弟子に当たるケダリオンを肩に乗せ、 彼の案内によって太陽神ヘリオスの宮殿に出向き太陽光によって視力を回復させましたた。
メロペへの失恋はショックでしたが、オリオンは直ぐに気を取り直し曙の女神エオスとの恋に夢中になります。
ところで、エオスの仕事は夜明けを告げる事。
しかし、オリオンと付き合っている間のエオスは彼に遭いたいがために仕事を早々に切り上げました。
この為、夜明けの時間が短くなったので、狩の女神アルテミスは不審に思って、エオスの宮殿がある世界の東の果てまで様子を見に現れました。
 
 そこで筋骨逞しいオリオンを見たアルテミスは一目見て夢中になってしまい、オリオンの方でも狩の女神との交際を楽しみ、 二人で仲良く野山を駆け巡る生活が続き、 二人の仲はあちこちで評判になりました。
 
 処女神である妹の評判を気に病んだのはアポロン。
アポロンはある日、一計を案じて、巨大なサソリにオリオンを追いかけさせ、オリオンはそれに対して弓矢で応戦しますが、優れた狩人であっても、神が放ったサソリには敵いませんでした。
オリオンは海に逃げ出して、沖まで泳いだのです。
それを見ていたアポロンは、 今度はアルテミスをけしかけて、海に向かって、点となったオリオンを指さし、アルテミスに言った。
「貴女の弓の上手は分かっているが、あの距離を射抜くことは出来ないだろうね」と!

 兄の言葉を聞くと、アルテミスはさっと矢をつがえ、海の向こうの黒い点に向かって放ちます。
弓の名手のアルテミス、矢はオリオンを直撃し、彼の死体はまもなく波打ち際に打ち寄せられました。
オリオンを自らの手で射殺してしまったアルテミスの悲嘆は例えようもなく、彼女はオリオンを天に上げて長くその面影を留めたのです。
しかし、何故だかサソリも星座として天に上げられたので、オリオン座はサソリが天にいる夏の間は姿を見せません。

続く・・・・


2009/06/10

ギリシア神話の神々6

<アルテミス・Ⅲ>

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 狩が好きな青年アクタイオンは、カドモス王の孫に当たります。
今日も彼は、猟犬と友人を連れてキタイロンの山奥に鹿狩りに出かけていました。
一方、アルテミスは同じ森で狩を追えて天然の洞窟の中で、ニンフ達と沐浴中。
滾々と湧き出る泉。
ここでアルテミスは、美しいニンフに着物や弓矢を預けて、髪をすいてもらったり清水を浴びたりと、そんな女性同士で幸せなひと時を過していました。

 アクタイオンは、そこに女神とニンフが、居るとは考えもしなかったでしょう。
木立を分け入って入っていった場所に、美しい女達が裸身を清水につからせていたのです。
彼女達は悲鳴をあげながらも、女神アルテミスの裸体を隠そうとしました。
しかしアルテミスは、ニンフ達より背が高かった為、アクタイオンと目が合ってしまいました。

 アルテミスは羞恥と怒りに頬を赤く染め、そして怒鳴った!
「どこへでも行って、アルテミスの裸身を見たと言いふらすが良い。それが出来るのならね」
アルテミスが、アクタイオンに水をかけると、その部分から鹿の角が生えてきたではありませんか。
アクタイオンの耳はとがって毛が生え、衣はまだら模様の毛皮へと変わっていきました。
手足に蹄、そしてその心は臆病な小牡鹿の心臓になってしまったのです。
アクタイオンがその場を逃げ出すと、今度は今まで彼が連れていた50匹の猟犬に見つかりました。
よく訓練された猟犬達は、鹿を見つけた途端襲いかかります。
それが自分達の主人が、変わり果てた姿だとは、よもや夢にも思わなかったでしょう。
アクタイオンは犬達に、呼びかけたがもはや鹿の声しか出なかったので、その叫びは当然ながら通じません。
とうとうアクタイオンは犬達に惨たらしく噛殺されてしまったのです。

続く・・・・


2009/06/09

ギリシア神話の神々5

<アルテミス・Ⅱ>

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 ゼウスに無理やり処女を奪われたカリスト。
彼女はその後もアルテミスの侍女を勤めていましたが、この全能の父に愛された女性は、100%の確立で妊娠してしまいます。
勿論、カリストも例外ではありませんでした。
ある日の昼下がりの水浴の時間、アルテミスはカリストが衣服を脱がないのに気づきました。
周りのニンフ達が、恥らうカリストの服を無理やり脱がした時、カリストはもう妊娠9ヶ月になっていたのです。
 
 そのふっくらとしたカリストの腹を見たとき、アルテミスは美しい眉をひそめて「あっちへ行っておしまい。この美しい森を汚す事は許しません」と言い放ちました。
尊敬する女神に決別されて、大好きな狩猟も出来ないカリストは、身重の身体を抱えて森を出るしかありません。
そして、カリストの不幸はこれに止まりません。
カリストは一人寂しく、母に似た愛らしい息子アルカスを産みました。
事の成行きを苦々しい思い出見ていた女神ヘラ によって、美しいカリストの姿は熊に変身させられてしまいます。

 もはや人間の言葉も失ったカリスト。
しかし、かつての乙女心はそのままに、熊になったカリストは今度は自分が狩人から逃げ回る生活になってしまいました。
熊の身の上では子育ても出来ません。
息子のアルカスは、祖父リュカオンに育てられたとも、ヘルメスの母マイアが引き取ったとも言われています。

 やがて15年の歳月が過ぎ、アルカスは母に似て狩猟を好む少年に成長していました。
ある日アルカスが森を歩いていると、目の前に熊がいる!
しかし、その熊はカリスト自身。
カリストは、目の前にいる少年が自分の息子だとすぐに気付き近づきました。
しかし、アルカスにしてみればどう見ても熊にしか見えません。
アルカスはかつての母の変わり果てた姿とは知らず心臓めがけて、矢を向けました。

 ギリシャ神話ではどういう事情であれ、母を殺すのは大犯罪で、その罪を犯すと例外なくウラノスの血液から誕生した復讐の女神に責められます。
しかし、この時天上にいたゼウスがこの親子を助けます。
ゼウスは一陣の風を送り、カリストとアルカスを天に輝く星に変えました。
それが大熊座と小熊座ですが、星になってもカリストは、ヘラの憎しみから免れる事は、ありませんでした。
親子ともども、一年を通して夜空を駆け巡る事になったのです。

続く・・・・


2009/06/08

ギリシア神話の神々4

<アルテミス・Ⅰ>

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 アルテミスは、ゼウスとレトの子として生まれ、アポロンとは双子の兄妹です。
産まれて直ぐに母レトの出産の手伝いをしたという逸話も残されています。
母の苦しい出産の様子を幼い脳裏に焼き付けられた為か否かは、神話上に記載はありませんが、彼女は一生を処女で過ごしました。

 アルテミスと言えば、「月の女神」とする物語も多いと思います。
正しくは「野山を支配する野生動物の守護神」で、「純潔」の象徴であり、同じ処女神に、「軍神アテナ」や 「竈の女神ヘスティア」がいます。
アルテミスは「純潔」の象徴なので、付き従う森のニンフ達にも「純潔」を守らせました。

 リュカオンの娘カリストもそうしたニンフの一人。
敬愛する狩猟の女神アルテミスと同じように、流れる髪を無造作に束ね、弓矢を持って森を駆け回る日々を送っていました。
カリストは、此処で一生、女同士で楽しく暮らすはずでしたが、 そんなカリストの生き生きと愛らしい様は天上のゼウスの気を惹いてしまいました。

 夏のある日、仲間の群れから離れて深い森の中で昼寝をしていたカリストに、ゼウスは近づきました。
ゼウスが浮気をする時は、大抵何かに変身する事が殆どですが、この時、ゼウスは我が子アルテミスに化けて、カリストに近づき、今日の狩猟の様子を尋ねたのです。
相手が正しくアルテミスだという事を全く疑わないカリストは、嬉々として質問に答えました。
その時の可愛らしい様子にゼウスは胸に抱いて、正体を現したのです。

続く・・・・


2009/06/07

ギリシア神話の神々3

<モイラ・沈黙の女神達Ⅲ>

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戦い

 普段は黙々と生命の糸を紡いでは切るという自分達の職務に従事し、他の事には一切手を出さないモイラ達ですが、オリュンポスの神々に対する叛乱が起こったときには意外にも積極的に戦闘に参加しています。

 まずは大地の女神ガイアの生んだギガス(巨人)達がオリュンポスに攻め寄せてきた、いわゆるギガントマキアでのこと、無敵の腕力を誇る彼らを神々の中でも最も強力な面々が迎撃した際、モイラ達もそれに加わって青銅の棍棒を振るい、アグリオスとトオンという2人のギガスを殴り殺しているのです。
最も、ギガス達は「神々によって殺されることはない」と予め定められていましたので、殴り殺したといっても厳密には瀕死状態にしただけであり、止めは当時まだ人間だったヘラクレスが刺したのですが、それにしても他ならぬ運命に叩きのめされたのではアグリオスとトオンもさぞや堪えたことでしょう。
 
 2度目は、ギガス達の敗北でますます怒り狂ったガイアが最終兵器として生み出した怪物テュポンが、王者ゼウスを打ちひしいでオリュンポスをかつてない危機に陥れたときのことです。
テュポンによって四肢の腱を切り取られ、1度は無力な状態で幽閉されたゼウスですが、詐欺と盗みの天才であるヘルメスが敵の手下から腱を奪還し、再び身体に取り付けてくれました。
力を回復したゼウスはすぐさま牢獄を飛び出し、油断していたテュポンに上空からこれでもかと稲妻を降り注ぎました。
予想だにしなかった反撃を食らって肝を潰したテュポンは、雷火に傷ついた身体を抱えて命からがらアジアのニュサ山まで逃げましたが、そのとき、彼の前に突然モイラ達が現れたのです。

 3人の老婆はうっすらと笑みを浮かべ、手に持った「力を増す果実」をこれ見よがしに見せました。
モイラ達は、掌中でつややかに輝く果実をさも大事そうに撫でて見せます。
その様子はいやでもテュポンの目に留まりました。
「力を増す果実……まさか、あれがそうなのか!」
モイラ達は大きく目を瞠ります。

 力を増す果実を奪おうと、奈落の底から響くような怒号を発して、テュポンが長い腕を振り上げました。
ゼウスですら一度は敗北したその力はさすがに天下無双、握り潰されそうになったモイラ達は絶叫し、大事な果実を放り出して逃げていきました。
地面に転がった小さな実をテュポンの巨大な指がつまみ上げます。
果実は陽の光に輝き、いかにも神秘的な力を備えている様に見えました。
狂喜したテュポンは迷わず口を開け、果実を放り込みました。

 満足げに眠りについたテュポンを、更に満足げな様子で、天上からモイラ達が見ていました。
すべては計画通り――彼女達がテュポンに食べさせた果実の名は「ただ1日だけ」といい、力を無惨に萎えさせる無常の果実だったのです。
果たして、ゼウスに再び戦いを仕掛けたテュポンはあっさり敗北し、シケリア島のアイトナ火山に封印されました。
神々の王による史上最強の怪物退治の裏には、こんな隠れた戦友たちが存在したのです。

終わり。
2009/06/06

ギリシア神話の神々2

<モイラ・沈黙の女神達Ⅱ>

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ゼウスとモイラ

 モイラ達によって、定められてしまった事柄まで自分の都合で変更する事は、如何なる神にもできません。
神々の王ゼウスですら、特別寵愛した3人の息子ミノス・ラダマンテュス・アイアコスに不死の生命をと望みましたが、モイラに駄目だと言われてやむなく諦めたほどでした(もっとも、アポロンが彼女達を酒に酔わせ、自分のお気に入りの人間アドメトスのために死を免れる道――「誰か彼の身代わりとしてすすんで死ぬ者があればアドメトスは死なずともよい」――を確保した例もあるので、やり方次第と言うべきかもしれませんが)。

  また、特にトロイア戦争中に見られた事ですが、その日の戦の勝敗や戦士たちの生死についてのモイラの定めを知る為に、ゼウスはよく黄金の天秤を使いました。
戦う両者の運命を皿に乗せ、下がった方、すなわちより冥府に近付いた方が敗北を定められた側なのです。
これを受けてゼウスは勝利すべき側に力を与えて盛りたて、他方死すべき側の覇気を挫いて運命を成就させるのでした。
この様なゼウスとモイラの関係から、果たしてゼウスはモイラより上位に位置するのか、それとも彼女達に服属する存在なのかと、彼の支配権の絶対性を疑う見方も出てきます。
「神々と人間の王」と名乗って威張ってはいるが、とどのつまりはモイラ達が定めた運命の執行人に過ぎないではないかというのです。

  そのとおり、ゼウスは運命の執行人です。
ですが、だからといってモイラがゼウスの上位に来るという事には全くなりません。
神の権能というものは一種の不可侵性を有しており、1度与えられたら最後、剥奪されない限りはその分野における他神の干渉を許しません。
例えば、ゼウスといえどもヘリオスの操る太陽の馬車を御することはできませんが、だからといってゼウスはヘリオスより無能だ、ヘリオスの方がゼウスよりも偉いということにはなりません。
太陽の馬車を御するのは太陽神の権能であってゼウスの権能ではない、ただそれだけの話です。

  モイラの場合もそれと同じ事。
人間の運命を定めるのはモイラに委ねられた仕事であり、彼のそれではないのです。
ましてや運命の執行人たるゼウスが、その運命をねじ曲げて恣意的な我侭を通す事はどの神にもまして許されません。
それは己の権利のよって立つ基盤を我と我が手で突き崩す事になるでしょう。

  絶大な権力を持ちながらゼウスがモイラ達の言い分に大人しく従い、何の圧力も加えようとしないのはこういう事情からなのです。




2009/06/05

ギリシア神話の神々1

<モイラ・沈黙の女神達Ⅰ>

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  薄暗い洞窟の中、手に持った糸巻き棒から黙々と糸を紡ぎ出しては長さを測り、大きな鉄の鋏で断ち切っていく老いた女達……退屈しのぎの談笑もなければ言葉すらなく、ただバチンという無慈悲な鋏の音だけが響く。
その作業をもし目の当たりに見ることができたとしたら、あなたはどんな印象を抱かれるでしょうか?

  陰気に凍りついた老婆達の横顔に、骨すら断ちかねない大鋏の鈍い輝きに、きっと恐怖とまではいかなくても薄ら寒い不気味さを覚える方が多いのではないでしょうか? 
ギリシア人が考えた運命の女神モイラとは、まさにそのような底知れぬ暗さを秘めた存在でした。

  彼女達が扱っているのは人間の生命の糸。
現在を司る女神クロトが糸を紡ぎ、繰り出された糸の長さ(これがその人の生きた時間を表します)を過去の女神ラケシスが測り、もう十分だと判断されるとモイラの中でも最も暗く冷徹な未来の女神アトロポスが手にした大鋏で音高く断ち切るのです。
切られたところがその人間の絶命の時であることは言うまでもありません。

  モイラ達の定める「運命」とは、誕生から死に至るまでの寿命の長さと、人生におけるごく基本的な筋書きを指します。
しかし何から何迄、全部が定められているわけではなく、残りの部分は本人の意志、他の神々の干渉、その場のなりゆきなど多くの要因によって自由に盛りだくさんに彩られていきます。
人間は彼女達の操り人形ではなく、だからこそ自分の行動に責任を問われます。
善き行いをすれば賞賛され、悪行を働けば罰されもするのです。

続く・・・・
 
2009/06/04

夏の星座23

いるか座

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 夏の終わり頃、鷲座のアルタイルの東に輝く可愛らしい菱形の星座がいるか座です。
この星座のγ(ガンマ)星は二重星で小口径の望遠鏡で黄い3.9等星と青い5等星の星に分離することができます。

 日本ではその形どおり「菱星」や、機織の時縦糸と横糸を引き込むための船形をした道具に見たてた「梭(ひ)ぼし」と呼ばれていました。
ヨーロッパでは「ヨブの棺」と呼ばれることもあります。

 ギリシアでは、いるかを神聖な動物とし死者の魂を運んでゆくと信じられていました。  
また、ギリシアには神話とは別に、この星座にまつわるもう一つ、 紀元前7世紀頃に実在したギリシアの詩人で音楽家のアリオンの物語が残されています。

 地中海のレスボス島に琴の名手で詩人でもあるアリオンという人がいました。
ある時彼は、シチリア島で開かれた音楽競技に出てみごとに入賞し、 コリントの船で帰国の途につきました。
ところがアリオンが賞金を持っていることを知った船乗り達が、彼を殺して賞金を奪おうとしました。
これを知ったアリオンは、自殺を覚悟して「最後にもう一度あの琴をひかせて欲しい」と船乗り達に頼み、琴を奏でながら心を込めて詩をうたいました。
船乗り達も、その美しい音色と詩に心を打たれて聞き入り、また海の魚や動物達も船のまわりに集まってきて アリオンの歌に耳をかたむけました。
歌い終わったアリオンは死を覚悟して海へと身を投げました。
すると不思議なことにアリオンの音楽を聞きに集まっていた、いるかの1匹が彼を乗せて近くのタイナロス島まで運んでくれたのです。
アリオンはこうして無事にコリント王ベリアンデルの王宮につくことができたのだそうです。
この時のいるかが、いるか座になったとも云われています。


2009/06/03

夏の星座22

さそり座・アンタレス

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 太陽からの距離600光年、大きさは太陽直径の約200~800倍にも達する赤色巨星で、表面温度は3000k程度です。
老齢で星の内部が不安定になっているため脈動し、約5年間で0.9等から1.8等まで明るさを変える長周期変光星で、緑色の暗い伴星があります。

 赤い1等星のこの星の名前は、ギリシア語のローマ文字化、意味は「アレース(火星)に対抗するもの」で、 この星の色が火星の色によく似ていることからそう呼ばれます。
地球に接近した時の火星は、アンタレスと比較にならないくらい明るく輝きますが、 地球から距離が遠い時の火星とアンタレスは色や明るさがとてもよく似ていて、 アンタレスが黄道上に近く、火星がこの付近にくることもしばしばあるので、このような名で呼ばれるようになったと考えられています。

<国が変われば>

 アラビア名は「カラブ・アル・アクラブ(さそりの心臓)」で、この名前の通り、この星はさそりの心臓あたりに位置しています。

 中国では、「火(か)」「大火(だいか)」「火星」などと呼ばれ、 「日が最も長く、火(アンタレス)が日没後南中するのが仲夏(夏至)である」という意味あいの言葉や、 「火星西に下る」という、アンタレスが南西の地平線に近くなると季節が夏から秋へと変わることを意味する言葉などが残されています。 また、アンタレスの左右にある「σ、τ星」とα星アンタレスの3星を「心宿三星」といいます。
他にも、火星が天王(アンタレス)に近づくのを「けいわく(火星)心に迫る」といい、最も不吉としていました。
秦の始皇帝の36年天文には、火星が真っ赤で、にわとりの血のように見えた次の年、始皇帝は滅び二世が即位して、 兄弟や大臣たちを殺し、ついに秦が滅びたと記してあったり、唐の世には玄宗の天宝13年に火星が50日余りも心宿にあって、 次の年、安祿山(あんろくざん)が反乱を起して帝が蜀の国に逃げた。などの記述が残されています。

 日本でも、その印象から「赤星」「酒酔い星」や、「子(ね)の星」とも呼ばれていて、 これは、子は十二支を北から東まわりの方角に割り振った時、北にあたるから「北の星」という意味で子の星といったそうです。
他にも船乗りの間では、「目当て星」「方角星」と呼ばれ、 「σ、τ星」とα星アンタレスの3星を「てんびん」「かごかつぎ」「稲にない」「粟にない星」や、「親にない星」など、 アンタレスの色が赤いほど、かついでいる荷が重い、つまり豊作だということから、 「豊年星」や「商人星」「天秤棒星」「負子星」「鯖売り星」「鯖かたぎ」「塩売り星」などとも呼ばれていました。


2009/06/02

夏の星座21

りゅう座Ⅱ

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 竜座は世界の西の果てヘスペリデスの園にある金の林檎の気を守る100の頭をもつ竜と言われています。
英雄ヘラクレス は、12の功業の11番目にこの林檎を手に入れるように命じられたのですが、その場所が良く分かりませんでした。
そこでヘスペリデスの3人姉妹の父アトラスのところに出掛け、「私があなたの天を支える仕事を一時かわりにやってもよいので、黄金の林檎を手に入れてきてもらえませんか」と言いました。
アトラスは、重い天を支えるという永遠の重労働から逃れられると知って、大喜びで承知し、さっそく林檎を取ってきてくれました。
そして林檎を渡す前にヘラクレスに「私がこの林檎を王に届けるから、きみはそのまま天を担いでいてくれ」。
ヘラクレスもこれには驚きましたが、しばらく考えてから「それでもよいが、肩が痛くてたまらないので、どうやって担いだら楽に担げるのか見せてくれないか?」。
アトラスがまんまと計略に引っ掛かって天を担いだ途端、ヘラクレスはさっさと金の林檎を奪い取り、そのまま戻ってきませんでした。

 この黄金の林檎を守っていた竜は100の頭を持っていて、何時もどれかは目を醒ましていたのだと云います。


2009/06/01

夏の星座20

織女星・ベガ


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 夕の織姫星(織女星)として知られる、夏の宵の夜空を飾ること座 のベガです。
夏の三角形 の中でも一際明るく輝く青白い星で、 Arclight of the sky(夜空のアーク灯)、夏の夜の女王星、真夏のダイアモンドなどに例えられる美しい星です。

 太陽からの距離25光年、シリウス、カノープス、ケンタウルス座のα星アルファ・ケンタウリに次いで、全天で4番目に明るい星で、 地球の歳差運動のために1万2000年後には天の北極の近くに移動し、北極星として輝くようになる星です。

 アラビア語のアル・ナスル・アル・ワーキ(落ちる鷲)で、 天の川を隔てたわし座 のアルタイルがその両側の星と伴に、 翼を広げた鳥という印象なのに対して、 べガの方はすぐ近くにあるζ星ε星と合わせて∧型で、翼をたたんで降下する鷲という印象からきています。 古代アラビアでは、わし座 とこと座 の事を、アル・ナスライン(Al Nasrain)2羽の鷲と呼び、 これにはくちょう座 を加えて、3羽の大きな鳥が砂漠の夜空に舞う様子を想像していました。

 中国では、「織女」「織女三星」と呼ばれ、 日本では、七夕の「織姫、織女星」、「たなばた女(たなばたとは棚機のこと)」「たきたなばた」「めんたなばた」などと呼ばれていました。
わし座 のアルタイルと合わせて「夫婦星」「天の河星」ともいわれます。

 現在私達の太陽系は、およそ19km/秒という速度でヘルクレス座のξ星に向かって移動しています(太陽向点)。
ベガに近い方向なので、この先行く手のベガは少しずつ輝きを増してゆき、 およそ、32万5千年後には、ベガとを追い越してしまうそうです。
ベガは長い年月が経つにつれて青白い輝きを増し、美しく天球を飾ります。