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2008/11/01

実在のナウシカ:ギリシャ神話の世界から

実在のナウシカ:ギリシャ神話の世界から

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 パイアケス人の国の王女、俊足の空想的な乙女で、その美しさは多くの求婚者をその島に引きつけていた。
彼らの多くは美男でみな勇敢な男たちだったが、ナウシカはその求婚を全部断った。
彼女は自分と同じように頭の回転が早く、普通の人間が見逃すようなことにも、自分と同様の反応をする男を望んでいたのだった。
ナウシカは、まだ結婚するには若過ぎると父親に説得させ、海岸を散歩したり、海で泳いだり、竪琴を弾いたり、自作の歌を歌ったりして、幸せに島で暮らし続けた。

 ある時、彼女は海岸で侍女たちと一緒に、皮のボールを投げて遊んでいた。 
するとボールを追って走っていった侍女たちの一人が、悲鳴をあげてあとずさりした。
血まみれの裸の男が岩の陰からはい出してきたのだった。
その人物は、オデュッセウスで、打ちのめされ、半殺しの状態で、岩だらけの海岸に打ち上げられ気を失っていたのが、今ようやく目を覚ましたところだった。
海神レウコテア(イノ)のくれたヴェールも、彼が海に浮かんで漂流する助けとはなったが、岩に対して彼の身を守ってはくれなかった。
悲鳴をあげた女達の中でナウシカだけは怖がらなかった。

中略

 さて、彼はナウシカの館に招かれ、宴会の後、何とかこの見知らぬ人物の正体を突き止めようとしていたナウシカは、楽士の手からハーブを取って即興の歌を歌い始めた。
彼女は英雄たちの事、イアソンとそのアルゴ船一行の事、テーバイ攻めの7将や、カリュドンの猪狩りに集まった勇士達の事を歌った。
又、トロイアの事、トロイアに戦った双方の英雄達の事を歌い、そして幾度も主導権をアガメムノンから奪い、劣勢をものともせずにギリシア勢の士気をたて直したイタケの王オデュッセウスが如何にアキレウスを説得し、鮮烈に戻ってヘクトルを打ち負かすよう勧めたか、その経緯も彼女は歌った。

 最後に彼女は、トロイアの木馬の事、その腹に隠れた兵達の事を歌った。
並みいる宴席の客達はこの強かな船乗りが顔を両手に埋めて泣くのを見て驚いた。
オデュッセウスは涙に濡れた顔をあげ、「王陛下、どうかこの不覚の涙をお許しいただきたい。だが美しい王女の歌われたオデュッセウスこそ、この私なのだ」と言った。

 一同はどっとばかりに歓迎の歓声をあげた。 
世界中でオデュッセウスの名ほど赫々と輝く名は無かったからである。
それでもなお王と王妃は、この誉れ高い客が早く出立することを望んだ。
彼らは王女がオデュッセウスに恋することを心配したのだった。
イタケに妻のいることも彼らは知っていた。
彼らはオデュッセウスに山のように贈物を贈り、彼を急き立てて、既に何時でも出帆できるようになっている船に乗せた。
ナウシカは岸辺から船が見えなくなるまで見送っていた。

後略

 ナウシカの方は、ある伝説によると、決して結婚せず、最初の女吟遊詩人となって宮廷から宮廷へと旅し、英雄の歌、とくにオデュッセウスと、その恐ろしい地中海の島々を巡りながらの冒険の数々を、歌い続けたという。
ナウシカは最後にイタケの宮廷に至り、オデュッセウスの息子テレマコスと結婚したともいう。

 いずれにせよこの乙女は、偉大な航海者オデュッセウスの風雨にさらされた心の中に、格別の場所を占めていたのである。

(教養文庫 バーナード・エヴスリン『ギリシア神話小事典』より抜粋)

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