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2013/08/31

歴史のお話その198:蒼き狼の帝国④

<モンゴル帝国の成立④>

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◎モンゴルは何故強力な力を保持したのか②

 モンゴル兵の強靭さは、更に在ります。
千戸制、機動力の他に挙げるとすれば、モンゴル人の純朴さ、素直さがあると思います。
今でも、モンゴル共和国で遊牧生活を行う人々は日本人が遥か昔に忘れてしまった人の良さを持っているそうです。
現在の日本人が、感動するくらい素朴な人達とのこと。

 チンギス・ハーン時代は尚更だったことでしょう。
素朴で素直と言うことは、兵士としては多分一番の適性で、「前進」と命令されれば、何があっても何処までも前進すし、「殺せ」と命令されれば、疑うこと無く従いました。

 しかも、この様な兵士達がチンギス・ハーンに忠誠心を持つのですから、これに太刀打ちできる軍隊はまず存在せず、言葉で表せば「困苦に耐え、快楽を喜び、命令に忠実である」と言えます。

 未だ、チンギス・ハーンが大勢力を築く前、モンゴル高原の統一を目指していた頃ですが、ある戦いでチンギス・ハーンの首に敵の矢が刺さって、ばったりと倒れ、戦いが終わっても彼は昏倒したまま目が覚めることが在りません。
やがて、吹雪になって雪が降りだしますが、矢が急所に刺さっているだけに動かすに動かせないのです。
其処に一人の武将が、自分の服を脱いでチンギス・ハーンの身体にさしかけ、一昼夜を共にしました。
一日経って、チンギス・ハーンは無事に目覚めるのですが、自分の周りにだけ雪が積もっていないことに不思議に思いながら見渡すと、その武将は身じろぎもせずに傍に付き添っていたと云います。
この様に忠義を尽くす武将が沢山存在した軍隊がモンゴル軍なのです。

 更に初期のモンゴル軍は、抵抗した都市を徹底的に破壊し、その住民を殲滅しました。
恐怖の軍隊として、その残虐さを強調することで宣伝効果を狙っていたふしも在ります。
ホラズム攻略では、ある都市を降伏させるとその住民総てを奴隷にして、次に攻略する都市まで引き連れて行き、その奴隷達を攻撃の第一陣として使い、又は、攻撃の為の土木工事に死ぬまで働かせました。
抵抗すれば後ろからモンゴル軍に殺されるので、前進して仲間に対して攻撃を仕掛けなければならず、退くも地獄、進むも地獄です。

 残虐さは、敵の抵抗を引き起こすものの様ですが、モンゴル軍の様に徹底的な殲滅攻撃は、抵抗する気力すらも無くなるものかもしれません。

 チンギス・ハーンが晩年に将軍達を集めて宴会を行った場で、彼は将軍達に訪ねます。
「人生最大の幸せは何か」
将軍達は「草原で家族に囲まれてのんびり遊牧をすることです」と答えたのですが、「それは違う」とチンギス・ハーンは言い放ちます。
「人生最大の幸福は、敵を思う存分撃破し、駿馬を奪い、美しい妻や娘を我がものにし、その悲しむ顔を見ることだ」

 最後の言葉が凄いと思います。
悲しむ顔を見ること、この様な言葉を吐き出す人間は、大帝国を築いた英雄だとしても、とんでもない人物です。

 チンギス・ハーンについて、二つ程逸話を紹介します。

 モンゴル族が対立する部族、ナイマン族を滅ぼした時にナイマン王の金印を手に入れたチンギス・ハーンは、その物が何なのか解りません。
この金印を文書に押すだけで、王の命令が全国に行き渡るのです、と教えられて非常に感心したという話が在ります。

 又、金国の北部を占領した時、中国の農民を皆殺しにして農地を総て牧草地にすれば、沢山の馬が飼えると喜んだのですが、それを聞いて遼の王族出身でモンゴルに仕えていた耶律楚材が、農民は生かしておけば一年に一度たっぷりと税金が取れるのですよ、とチンギス=ハーンに進言します。
その言葉に一利有るなと思ったチンギス・ハーンは、一年様子を見ていたら確かに収穫時にどっと税が入って納得したと云います。

 此等はモンゴル人を低い文化の民族とする為に中国人が作った話かもしれませんが、それでも当時のモンゴル人の雰囲気を伝えていると思います。

 この逸話の言わんとする処は、初期のモンゴル人の政治的経験は、遊牧社会にしか通用しないものでした。
領土を拡大するに伴って、様々な統治技術が必要になり、民族人種に関係なく有能な人材を次々に政府の中枢部に組み込んでいきます。
耶律楚材もその一人です。
 
 又、チンギス・ハーン時代のモンゴルの人口は十万戸、七十万人程度なので、征服地が増えるにしたがって、モンゴルの千戸制に組み込まれる人々も増えます。
近代的な民族意識はまだ存在しない時代ですから、新たに組織された人々、政府中央で活躍する人々、それらを総て含み込んで、モンゴルと呼ばれる巨大な集団が形成されていったのです。

蒼き狼の帝国:続く・・・


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