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2013/11/28

歴史のお話その270:語り継がれる伝説、伝承、物語57

<エトルリアの像の親指> 古美術を贋作した名人の失策

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 古代エトルリア戦士を模ったその粘土塑像は、高さ2m余り、重さは少なくとも500kg近くも在りました。
像に上塗りと着色が施され、周囲の足場がゆっくりと取り外されました。
3人のイタリア人彫刻家達は、後ろへと下がり、作品の出来栄えをほれぼれと眺めていましたが・・・と思うと、彼らはやにわに像を押し倒しまし、砕け散りました。
彼らは次に、破片を拾い集めて、又ひとつひとつと繋ぎ合わせ、やがて、罅と亀裂が無数に走る古代エトルリア像が出現しました。

 この像をニューヨークのメトロポリタン美術館4万ドルで購入しまた。
時に1921年、当時としては、空前の価格でした。

◎専門家を24年間欺く

 美術館が偽造に気づいたのは、それから40年後でした。
偽造は家族ぐるみの仕事で、ピオ・リッカルディとアルフォンソ・リッカルディの兄弟、彼らの3人の息子達の協力で始められました。

エトルリアはイタリア中部に繁栄した古代文明で、後にローマに征服されますが、その遺品は現在も発見される事があり、博物館や個人収集家の人気も高いものでした。

 「大戦士」の名で有名に成った巨像の偽作を計画したのは、ピオの長男リッカルドで、しかも偽作はこの仕事が最初ではありませんでした。
ローマ在住に古美術商ドメニコ・フスキーニと組んだ彼らの腕には、年季が入っていました。

◎「老戦士」の誕生

 一家の手がけた最初の大作は、青銅製の2輪戦車でした。
1908年12月、中部イタリアのオルピエート近くのエトルリア遺跡で、完全な「ピガ(2頭立て戦車)」が発掘されたと云う知らせが、大英帝国博物館に届きました。
2500年間土に埋まっていたと思われ、汚れを洗う作業はリッカルディ一家が行っているとの事でした。

 博物館がピガをフスキーニから購入したと公表したのは、1912年の事でした。
同年、リッカルディ一家は、仕事場をローマの場末からオルビエートに移します。
その後間も無く、ピオが死亡しましたが、一家はすぐに仕事を再開しました。
今回はアルフレード・フィオランパティと云う、腕のよい彫刻士の協力を得て「老戦士」と呼ばれる像を製作しました。
この像は、高さ2m、羽根兜と胸甲、具足を付け胸甲からひざ下までは裸で、右腕と左手の親指が有りませんでした。
右腕については、如何なる姿勢をとらせるかで、製作者の意見が分かれ、結局付けない事にしたのでした。

◎マンガンと通気孔

 「老戦士」は、完成するなり、メトロポリタン美術館に購入され、同美術館は、一家の大作「巨人像頭部」と呼ばれる作品も買い上げました。
この作品は、顎の下から兜の頂上迄、1.4m余りの高さが在り、この作品を見た専門家は、本来の像の高さは7m程度在ったと考えましたが、この2点の買取価格は僅か数百ドルでした。

 その次に作られたのが「大戦士」で、一家が完成できた最後の作品です。
リッカルド・リッカルディは、この像が完成する直前に、落馬事故で他界し、像がメトロポリタン美術館に売れた後、一家は仲間割れを起こし、チームとしての共同作業は終わりを告げました。

 メトロポリタン美術館は、3点の像を1933年2月に展示を開始しましたが、多くのイタリア人専門家は偽物の疑いをかけ、1937年に美術館がこれ等3点に関する論文を出版すると、論争は表面化したのでした。

 しかし、美術館側が弁明の為の調査を開始したのは、実に22年の歳月が過ぎてからでした。
徹底的な調査の結果、3点の像の上塗りにマンガンが含まれている事が判明し、紀元前800年頃に繁栄したエトルリアでは、マンガンを発色剤として、使用されていませんでした。

 美術館当局は、まだ詐欺に遭遇したとは信じていませんでした。
決定的な証拠は、1年後、本物のエトルリア古美術を調査した専門家によって発見されました。
エトルリア人は、常に塑像を始めから完成した姿で作り、焼いていました。
従って、炉に入れた時、焼きにムラが出来ない様に、塑像には通気孔を開ける習慣が在ることが、判明したのでした。

 リッカルディ一家は、塑像を部分ごとに焼き上げ、通気孔を作っていなかったので、塑像が巧みな模造品である事を、この失策が証明しました。

 そして、問題に異論の余地の無い決着を付けたのは、像の制作に協力した彫刻師アルフレード・フィオラパティでした。
1961年1月5日、当時75歳の老匠は、ローマのアメリカ大使館に出向き、自分の所業を統べて語り、自分が真実を語っている証拠に、彼は「老戦士」の左親指を提出したのでした。
彼は、仕事の記念品として、其れを保管していたのでした。

続く・・・


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コメント

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とても魅力的な記事でした。
また遊びに来ます!!