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2013/11/29

歴史のお話その271:語り継がれる伝説、伝承、物語58

<人類の祖先を創作した男>ピルトダウンの人骨の正体

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 チャールズ・ダーウィンが「種の起源」を発表した以来、彼の学説を証明する「ミッシング・リンク(類人猿と人類の中間に位置すると仮定される生物)の探求が科学界の課題と成りました。
ヒトとサルは、共通の祖先を持つ、とダーウィンは主張しました。
其れならば、とダーウィン批判論者は問いました。
なぜ、その様な古生物の化石が発見されないのか?と。

 何年も無益な探索が続きましたが、ダーウィン派の学者は1912年に漸く、面目を保った様に見えました。
イングランドのイースト・サセックスのピルトダウン共有地近くの砂利坑から、人骨の断面と歯が出土し、約50万年前に存在した、サルとヒトの中間動物の物と考えられました。

◎ミッシング・リンク接続?

 発見者は、チャールズ・ドーソンという弁護士で、アマチュアの地質学者、化石収集家でも在りました。
ピルトダウンの出土品・・・先史時代の打製石器、歯の化石、異様に分厚い人間の頭蓋骨の断片を、ドーソンは大英帝国博物館の知人、古生物学者のアーサー・スミス・ウッドウォート博士に送りました。
博士は、直ぐにドーソンに面会し、発掘史上稀に見る緊密な、連携作業が始まりました。

 頭蓋骨が発掘された場所の近くで、サルの顎をドーソンが発見した時、彼と博士は興奮を隠す事が、出来ませんでした。
なぜなら、その歯の減り方が、人間の顎特有の磨り潰し運動で生じたとしか、見えなかったからなのです。
ミッシング・リンクの条件を総て満たす証拠が、目の前に存在していました。
ヒトの頭脳と使用道具の能力を有しながら、サルの外観をした動物の化石が出土したのでした。

◎名誉をもたらした化石

 細心の注意を込めて、二人の研究者はピルトダウン原人の生前の姿を復元しました。
この原人は、女性の特徴は見受けられたものの、頭蓋骨には発声筋を固定する、窪みが存在しない為、話す事ができず、歯の摩滅の具合から、彼女は草食性活をしていたと、ウッドウォート博士は判断しました。

 ドーソンには、科学界で最高の栄誉が、与えられる事に成りました。
ウッドウォート博士が大英帝国博物館当局と計り、ピルトダウン人に発見者の名前を冠した学名を付ける事に成り、化石は「エオアントロプロス・ドウソニ」、つまり「ドーソンの原人」の正式学名で記録されました。

 ドーソンの幸運は更に続き、次の3年間に歯と骨、石器が出土し、1915年には最初の発見場所から3km離れた原野で第二のピルトダウン人の化石が発見されました。

1916年ドーソンは、52歳で他界し、代わってウッドウィード博士が発掘作業を続けましたが、出土品は2度と発見されませんでした。

 発見に関して、不信の声が上がり始めたのは、実はそれよりも以前の事でした。
1913年には、早くもケンブリッジ大学キングス・カレッジの解剖学教授デービット・ウォーターストンが、ピルトダウン人の顎の骨はチンパンジーの其れと、事実上一致すると主張していました。

おまけにスキャンダラスな噂も伝えられていました。
或る日の事、ドーソンの研究室を訪問した人物が、ノック無しで部屋に入ると、彼は骨を坩堝で焼いて、古色を付ける事に夢中に成っていたと云います。
しかし、ほとんどの学者は、顎の骨と頭蓋骨が同一固体のものであると認め、懐疑論者が削り取って検査等行わない様に、骨は厳重な監視下に置かれました。

◎科学のメス

 骨が科学的な検査を受けたのは、ようやく1949年に成っての事でした。
この年、大英帝国博物館の若い地質学者ケネス・オークリーが、新しい科学的検査法で年代を測定する為に、サンプルを取る許可を得ました。
骨は地中に埋まっている間、土中にフッ素を吸収するので、フッ素の含有量が、地中に埋まっていた期間を測定する決め手に成ります。

 検査の結果、頭蓋骨と顎の骨は、僅か5万年前のものと測定され、ミッシング・リンクより遥かに進化した、ネアンデルタール人と同年代ものでした。

 オックスフォード大学の人類学者J・S・ワイナー博士も実証的な解明を試みた一人です。
博士はピルトダウン人に対する疑問を一つ一つ個別に洗い直し、分厚い人の頭蓋骨と、サルに似た顎骨に生えたヒトの歯(ヤスリをかけたかの様に、平らに磨り減っている)・・・答えは其処に在りました。
チンパンジーの歯を手に入れて、ワイナー博士がやすりをかけ、古さびをつけてみると、ピルトダウン人の歯のほぼ完璧な複製が誕生しました。
オークリー博士は、1953年にもピルトダウン人の骨の調査を再度実行し、ワイナー博士の検証を援護しました。
検査の結果、頭蓋骨は本物の化石であるものの、顎の部分は巧妙に細工された偽物であることが、決定的に証明され、其れは現在のチンパンジーの骨であり、歯は、古びた姿に加工されていました。

 偽造は誰の手で行われたのか、現在でも判明していませんが、あらゆる点からドーソンと判定せざるを得ない様です。
彼は、化石を取得し易い立場の居り、ピルトダウンで出土した骨の破片を改ざんし、古色を付けるに十分な解剖学と化学の知識を十分に持っていました。
彼の死後、発見が停止し、この様な芝居を演じて、何等かの利益を売る人物は、ドーソンだけでした。
彼には金は、必要在りませんでした。
しかし、ピルトダウン人は、彼に金以上に貴重な富、「名声」をもたらしたのです。

続く・・・

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