2013/12/21

歴史のお話その289:語り継がれる伝説、伝承、物語76

<翼よ、あれがパリの灯だ:②>

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◎離  陸

 5月19日夜、リンドバーグは、大西洋上の天候が回復に向かっているという、報告を受け、ホテルで落ち着かない、仮眠を取った後、敢えて早朝に出発する事に決めました。

 その朝は、憂鬱な雨模様で、ルーズベルト飛行場から、ひどくもたついた離陸を行った“スピリット・オヴ・セントルイス”は、突然力を得て上昇し、機首を北東に向けて、ニューイングランド海岸を目指しました。
彼は、メルカトル投影図法の海図を徹底的にチェックし直し、この海図を基に、北上しつつ弓なりに飛行するルートを設定していました。
そのコースは、ニューイングランドからノバスコシア、ニューファンドランドの上空を通過し、北大西洋上3200kmを一気に横断、アイルランド海岸に達し更に、イギリス本土から英仏海峡を飛び越え、パリ、ル・ブルージュ飛行場に着くと言うものでした。

 離陸後、リンドバーグの飛行は順調に進み、愛機はマサチューセッツ海岸とノバスコシア海岸の間の大西洋上を快調に飛行していました。
その時、彼は激しい疲労感を感じ、この疲労感は、飛行中ずっと彼を悩まし続ける結果と成りました。

 夜の闇が迫り、既に離陸から12時間が経過し、位置を示す地上目標は、全く無くなりました。
是からアイルランドの海岸迄は、羅針盤と海図と鋭敏な勘の頼る他に手段は無く、しかも睡魔との闘いが続いていました。
“スピリット・オヴ・センツルイス”は今回の飛行計画で、最も危険な場所に差し掛りました。
眼下に見える海面には、氷山が浮かび、その進行方向は、濃霧に閉ざされています。

 無言に広がる、一面の広い黒い海上を、風雨と霧をついて飛行した、この長い夜も漸く明けようとしていました。
ニューヨークのロングアイランドを離陸してから、19時間後、空が明るく成り始め、リンドバーグは、高度を下げて、泡立ち騒ぐ大西洋上を低空飛行して、疲労回復を図り、眠気を覚ます為、自分の頬を叩いたりしながら飛行を続けたのでした。

 前方にアイルランドの海岸線が見え始め、ニューファンドランドを後にして16時間が経過し、疲労感に苛まれながら、又長い夜間の盲目飛行を行ったにも関わらず、予定のコースを僅か5km逸脱していたに過ぎませんでした。
しかも、予定よりも2時間30分も早く到達していたのです。

◎翼よ、あれがパリの灯だ!

 “スピリット・オヴ・センツルイス”は終にドービル上空でフランス海岸を通過、再び夜の闇が迫っていましたが、愛機のエンジンは、快調な響きを続け、リンドバーグの睡魔は完全に消え、行く手の柔らかな夜空に、パリの明るい灯火と紛れも無い、エッフェル搭の姿が見えたのです。

 彼は、ル・ブルージュ飛行場が、パリ近郊の北東に位置する以外、詳細は知りませんでしたので、滑走路の灯火を捜しました。
しかし、リンドバーグの眼に入ったのは、ビーコンや警告灯、誘導灯でもなく、何千、何万という光の海でした。
当惑した彼は、飛行場上空をゆっくりと旋回し、是等の光が、飛行場の周辺に集まった、自動車のヘッドライトだと判ってから、初めて降下を開始しました。

 リンドバーグは、飛行場の隅に在る、格納庫の方へ飛行機を移動させようとしましたが、その時、前方から無数の人間が走ってくるの見ました。
飛行機から降りながら、彼は一言だけ言いました。
「私がチャールズ・リンドバーグです」
そして、歓喜に沸き返る群衆に、あっと言う間に飲み込まれてしまったのでした。

続く・・・


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