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2009/08/06

ギリシア神話の神々63

<ハルモニア・不義から生まれた和の女神Ⅱ>



 その男の名はカドモス、東方の大国フェニキアの王アゲノルの息子です。
彼の姉妹であるエウロペが、奇妙な雄牛(正体は彼女に一目惚れしたゼウス)にさらわれてしまったので、彼女を捜して遥々ギリシアまで渡って来たのですが、デルポイの神殿でエウロペの行方を尋ねたところ、
「彼女のことはもう忘れろ。それよりおまえは腹に満月のような斑のある雌牛の後を追ってゆき、そやつが止まった場所に都市を建設せよ」
と、質問とはまるで関係ない回答を下され、大事な姉妹を泣く泣く見捨てざるを得なくなってしまいます(しかも「姫を見つけるまでは帰ってくるな!」と父王に厳命されていたので故郷にも二度と戻れなくなってしまいました)。

 仕方なく、神託に従ってそれらしき牛を追いかけ回し、疲れた牛が足を止めた場所に都を造ろうとしたところ、近くの泉に住んでいた凶暴な大蛇に部下の大部分を殺されてしまいます。
怒ったカドモスが槍を振るって勇敢に大蛇と戦い、これを倒すと、何とこの蛇はアレスの息子だったそうで父神が大激怒。
アレスに謝罪する為、都造りを一時中断し、8年間彼の奴隷として仕える羽目になってしまいました。
 
 しかし、やがてその善良で高潔な人柄を神々に認められた彼は、それまでの不運を一気に覆す破格の幸運に恵まれました。
8年の奉仕期間を恙無く満了した後、ゼウスがアレスの娘神ハルモニアとの結婚を提案してくれたのです(これは無論アレスとカドモスの仲直りを意図したものですが、ひょっとしたら自分がエウロペをさらったために故国を捨てて流離う羽目になったカドモスへの償い、あるいは寵姫の兄弟に対する個人的贔屓という意味も含まれていたかもしれません)。
アレスもアプロディテもこの縁談を了承した為、ハルモニアはカドモスの妻として与えられることに決まりました。

 さて、この話を聞かされたハルモニア自身の心境は一体どのようなものだったのでしょうか? 
と言うのも、高貴な女神にとって人間の男と枕を交わすのは恥辱この上ない事であるからです。
儚い恋に迷った末の一夜の仮寝でも恥ずかしいというのに、正式な妻となって生涯を共にせよとは前代未聞、見下げられている証といっても過言ではない屈辱的な命令です。
おまけに相手が父の奴隷であった男とは。
如何にゼウスのお声掛かりとは言え、普通の女神ならば全力で抵抗し、断固承知しようとはしなかったでしょう。

 ところがハルモニアは拒否の姿勢を示さず、至極おっとりとゼウスの命令を受け入れました。
この条件を呑めるとは、さすがは争いを好まぬ融和と協調の女神としか言いようがありません。
女神と人間の貴賤結婚という不釣り合いの極致であっても、彼女の調和力の前では問題ないものとして丸く収まってしまうのでしょうか? だとしたら大したものです。

 何はともあれハルモニア側の理解によって話は纏まり、カドモスはボイオティアの地に壮麗な都カドメイア――後にテバイと改名します――を築き終えた後、晴れて彼女を妃として迎え入れました。
以後ハルモニアは天界の女神としてではなく、地上に暮らす一国の王妃として悲喜こもごもの日々を送る事になります。

続く・・・

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