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2009/09/07

ギリシア神話の神々85

<セレネ・夜天を統べる聖なる女王>

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 漆黒の夜空に無数の星々を従え、燦然と煌いて、君臨する黄金の月。
日毎に形を変えながらも美しさには、変わりがなく、優しく下界を照らして悪しき闇を払う――その気高い輝きに古代の人々は神の姿を見たものでした。
 
 ギリシア神話に於ける月神は女神で、その名をセレネといいます(メーネと呼ばれることもあります)。その姿は、まばゆい光を放つ黄金の冠を戴き、きらきらと輝く裾長の衣裳を身にまとい、背には長い翼を持った絶世の美女として描かれます。
彼女は毎夜、兄である太陽神ヘリオスの後を受け、2頭の白馬に牽かせた黄金の戦車を駆って天空を馳せ行きます。
そして暁方になると、東の空に薔薇色の光を放って、輝き出る妹のエオスと入れ替わるように西の海に沈みます。

 ヘリオスが昼の世界で起こることすべてを見張っているのと同様に、セレネは夜の世界の監視者です。
彼女の光のお陰で旅人は道に迷わずに済み、悪事を働かんとする者は見顕され、夜間の安全が保たれるのです。
 
<月の恋物語>

 文字通り輝くばかりの美貌の持ち主で在り、しかも独り身であったにもかかわらず、セレネはさほど恋多き女神ではありませんでした。
彼女が関係を持った相手として、名を挙げられるのは、まず実兄のヘリオスです。
職務柄すれ違いばかりのこの兄妹が、いつ共寝の機会を持ったのかは謎ですが、2人の間には四季を司る女神ホーラ達が生まれました。

 又、美女に目がない天空の王ゼウスも彼女に恋し、臥所を伴にしてパンディア、ヘルセ、そしてネメアという名の娘をもうけたと言われています。
しかし、これが三姉妹を生んだという事を意味するのか、それとも単に1人の娘がパンディア・ヘルセ・ネメアという3つの名で呼ばれただけなのかは明らかではありません。
この中で最も有名なのはパンディアで、彼女は天界の女神達の中でも一際優れた美女であったと言われています。

 他には、牧神パンに恋い焦がれられた事もありました。
パンは、美しい雪白の羊毛皮を贈って彼女の気を引き、森の中に誘って想いを遂げました。
ギリシア神話としては、珍しい事に、2人の間には子供が生まれなかったようです。

 さて、これら3人の男神との情事に於いては、セレネ自身が相手に恋をしていたという気配は希薄で、特にゼウスやパンの場合は、明らかに男神の側からの誘いかけによるもの。
他所からの光を受けて初めて輝く月そのままに、セレネの恋は受動的です。

 しかしそんな彼女が唯一、自分から熱烈に愛した相手がいました。
その名はエンデュミオン――ゼウスの孫に当たる大変美しい青年です。
在る時、彼はゼウスから「このまま生きて死ぬか、不老不死となって永遠に眠り続けるか、好きな方を選ぶがよい」と言われて後者を選びました。
不老不死の願いが叶えられた代わりに、小アジアにあるラトモス山の洞穴の中で永久に覚めない眠りについたのです。

 花盛りの青春美を保ったまま安らかな寝息を立てるエンデュミオン――その姿をある夜、天の高みからセレネが目撃しました。
一目見た瞬間、それまでどちらかと言えば、冷ややかな方だった女神の胸に熱い恋情の火が点ります。 
魅せられたセレネは、吸い寄せられるように洞穴に天降り、エンデュミオンの端正な美貌をうっとりと眺めました。
見る程に愛し心は募るばかり、意を決して青年の傍らにそっと添い臥し、口づけをしてみましたが、まったく目を覚ます気配はありません。

 普通の眠りではない事に気付いた女神は、それならばと青年の夢の中に入り込みました。
そして、夢の中ではちゃんと息づいていた恋しい青年と心ゆくまで抱擁を交わした後、後ろ髪を引かれながらも天へ帰っていきました。
この世にも不思議な恋愛の虜となったセレネは、その後も夜毎ラトモス山に通い詰め、夢の中のエンデュミオンと交わりを重ねて何と50人もの娘を生みました。
彼女達は、暦月を司る女神でメーネ達と呼ばれます(この50という数字は、8年で1周期とするギリシアの暦に於いて、前半4年間の月数が49、後半4年間の月数が50であることに由来すると思われます)。

 是ほどの娘をもうけた後でも、セレネの愛は衰えません。
空を行く月がラトモス山の陰に隠れたら、女神が恋人の臥所を訪れている証であると言われます。
有名な魔女メデイア等はこれを利用して、自分が闇夜を欲するときにはセレネに術をかけてエンデュミオンへの恋心を燃え立たせ、望むがままに月の姿を空から消したそうですが、さて、今宵の小アジアでは月は消えているでしょうか?

続く・・・
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