FC2ブログ
2008/09/20

「銀河鉄道の夜」第13回

全体のまとめ

10-1017.jpg

<旧版と新版の相違>
 旧版では、ジョバンニの父親は密猟者であり、監獄に入れられていると言われていてジョバンニもその事実を受け止めている。しかし新版の結末では、ジョバンニの父親は帰って来ることになったので、父親の設定が変えられた。ジョバンニの父親は北の漁に出ているが、それが密漁であるかどうかは噂である。監獄に入れられたという噂も、ジョバンニは信じていない。

 更に旧版では、夢から醒めた後にジョバンニのポケットの中には金貨が二枚博士から入れられている。ブルカニロ博士が削除されると、ジョバンニは博士から金貨を貰うことができない。そのため、ジョバンニは仕事の給料として銀貨を貰っている。そして牛乳も売り切れてはおらず、後ほど渡すという形になっている。

 新版では、ジョバンニは「銀河ステーション」と言う不思議な声で夢へ入り、一人で夢から醒める。目醒めたジョバンニはまず牛乳屋へ行って母親の牛乳を貰いに行き、その後川でカムパネルラがどうなったかを知らされる。この時、カムパネルラの父親はジョバンニにジョバンニの父親が帰って来るということを伝える、という結末になっている。

 何故賢治は、旧版と新版の結末を完全に変えてしまったのでしょう?

<賢治の理想と現実>

 賢治は32歳の時に急性肺炎に掛かり、これは賢治にとってとしの死と同じくらい大きな転機であったのではないかと思われます。賢治は病気を経て、少しずつ自分の死期が見え始めたのです。そして、自分の描いた死後世界と、自分の置かれた立場とのズレを感じた事と思われるのです。

 新版で変えられた結末には、「ほんとうの幸」の教えを説いたり地上に戻ったジョバンニがするべき事を伝えるブルカニロ博士は居ません。そしてカムパネルラが居なくなった直後、ジョバンニは夢から醒める。その時彼が最初に思い出したのは母親の事で、直ぐに牛乳屋へ行って届けられなかった牛乳を貰いに行く。

 目が醒めた途端、ついさっき貰えなかった牛乳を取りに行っている箇所は、旧版の雰囲気とだいぶ異なります。旧版で旅の前後でのジョバンニに変化が見られたのに対し、新版ではまるで銀河鉄道の旅は、彼が黒い丘でうたた寝した時に見た夢の様です。

 つまり新版では、旅を終えたジョバンニに旅の直後の変化の様子は旧版程はっきりと見られない。旧版での「ほんとうの幸」のヒントやジョバンニに地上に戻ってやるべきこと(「ほんとうの幸」を求めること)を提示してくれたブルカニロ博士の存在から一変し、新版ではジョバンニにカムパネルラの死という事実だけが知らされ、銀河鉄道の旅がジョバンニにどう影響したのかは全く書かれていません。

 それこそ、賢治の感じた理想の死後世界と現実の病状との格差によって生じた結末の違いであると思います。彼が旧版で説いた「ほんとうの幸」という理想は、病気の彼には探し求めることができなかった。それを全て削除し、彼は「ほんとうの幸」や、ジョバンニが銀河鉄道の旅を体験して得たものを明確に記さなかった。それは賢治自身にも不完全なものになってしまったからでしょう。結局「ほんとうの幸」には、はっきりとした定義や輪郭を本文に書き記さない結末を選んだ思います。

参考/引用文献
畑山博(著) p.50 「二章 「銀河鉄道の夜」もうひとつの読み方」『銀河鉄道 魂への旅』 1996年9月5日 PHP研究所


ドクターモルツ | 成功するための思考法←興味を持たれたお客様、クリックを宜しくお願い致します。
スポンサーサイト



コメント

非公開コメント